2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15H03696
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
有田 亮太郎 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (80332592)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
是常 隆 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 上級研究員 (90391953)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 超伝導 / 第一原理計算 / 高圧下硫化水素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、超伝導転移温度の非経験的定量計算の方法論開発とその適用を行うことを目的とする。 本研究課題の開始とほぼ同時期に150GPa程度の高圧下において硫化水素が200K以上の超伝導転移温度を示すことが報告された。この転移温度はこれまでの銅酸化物高温超伝導体の記録を塗り替えるもので非常に興味深い。高圧下で硫化水素がどのような構造をとるかは難しい問題であるが、有力なシナリオとして、H3SとSに分解することが提案されている。特にIm-3m構造のH3Sはフェルミ面近傍にvan Hove特異点があり、これが他の硫化水素の構造にはない際立った特徴となっている。 このような電子状態の場合、通常の計算で採用されるconstant DOS近似は当然正当化されず、Migdal近似を無条件に仮定することもできない。すなわち、通常は考慮しない高次の電子格子散乱(vertex補正)が転移温度の定量評価に影響を与えうる。また、遅延効果を考慮する際、遮蔽クーロン相互作用の周波数依存性が重要な役割を果たす可能性もある。さらに、系が構造相転移近傍にあることから非調和フォノンの効果も正確に考慮する必要がある。水素の質量が軽いことから、零点振動が電子状態に与える影響も無視できない。 そこでこれらの効果をすべて第一原理的に考慮した計算を行った。それぞれの効果は10Kから60K程度の影響を与える。250GPa程度の高圧領域で、転移温度の実験値が160K程度である領域について、計算値約170Kを得た。一方、140GPa程度の圧力を想定してH2Sについて同様の計算をしたところ、転移温度は約45Kと評価され、実験との非常によい一致をみた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フォノンを媒介とする超伝導については、半世紀も前から金属水素において高い転移温度が実現する可能性が理論計算によって提案されていた。しかしながら、計算で想定されている圧力が非常に大きなものであったため、実験で実現可能な圧力領域で実際に超伝導が観測されることについては多くの研究者が懐疑的であったし、ましてや銅酸化物高温超伝導体の記録を塗り替えることは研究課題申請時には全く想定外のことであった。 研究課題開始時におけるこの非常事態において、これまで開発してきたコードの蓄積をうまく活用し、経験的なパラメータを導入しない計算としては最も精度の高い計算を短期間で実行し、この分野の研究をリードできたと考えている。たとえば、計算を進めるに従って零点振動、非調和フォノンなど計画の段階では想定していなかった効果が重要になることが明らかになったが、半年程度の時間でこれらの効果を取り入れた計算を完遂することができた。vertex補正については、方法論の改善を通してさらに精度を高めて行く必要があるが、最初のステップの計算を世界にさきがけて示すことができた。 現在のところ、研究は軽い元素の超伝導体の計算に重点がおかれ、スピン軌道相互作用が重要になる重い元素が含まれる超伝導体の計算は相対的に優先度が下がっているが、硫化水素における高温超伝導の発見が数十年に一度の歴史的な事件であることをふまえれば妥当な判断であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
超伝導密度汎関数理論だけでなく、密度汎関数理論とグリーン関数法を組み合わせる方法についても積極的に方法論開発に取り組む。 遮蔽クーロン相互作用の周波数依存性を考慮する試みについては、超伝導密度汎関数理論の枠組みで一定の成功を収めることができたが、同様の取り組みを密度汎関数理論とグリーン関数法を組み合わせる方法論について行うことを計画している。 一方、密度汎関数理論とグリーン関数法を組み合わせる方法では最も簡単化されたレベルでvertex補正を考慮することができたが、超伝導密度汎関数理論についてはこれができていない。交換相関汎関数がどのような変更をうけるか、実際の数値計算に進む前に解析的な計算を通して考察を進める。 方法論の開発と並行して実際の物質への応用も進める。高圧下の硫化水素では、チタン酸化物やバナジウム酸化物と類似の結晶構造(マグネリ構造)をとる圧力領域があることがわかりつつある。一方、チタン酸化物では、最近、薄膜にすることでバイポーラロン超伝導になる可能性が報告された。そこで、硫化水素超伝導体とチタン、バナジウム、モリブデン、タングステンといった遷移金属の酸化物との間に共通の物理があるか、という観点から超伝導体の設計、予言の可能性を探る。
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Research Products
(7 results)