2015 Fiscal Year Annual Research Report
衝突・振動による粉体の過渡レオロジーとその天体地形への応用
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15H03707
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
桂木 洋光 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (30346853)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
諸田 智克 名古屋大学, 環境学研究科, 助教 (30415898)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 粉体物理 / 天体地形 |
Outline of Annual Research Achievements |
実験研究については,安息角で静置した粉体の円錐構造に垂直振動を加え,そのプロファイルの緩和の様子を高速度1次元レーザーラインプロファイラにより定量化する新たな実験系の構築を行った.当初はポイント型とライン型の2種類のレーザー変位計を組み合わせることも想定していたが,ライン型のみで解析に必要な計測の仕様はほぼ満たされることが明らかとなったため,実験系をシンプルにするためにもライン型のみに絞って計測を行うこととした.構築した実験系においてテスト計測を行い,円錐構造の振動による緩和がほぼ拡散的緩和に従うことが明らかとなった. また,粉体振動層における粉体対流に関する研究にも取り組んだ.粉体対流により小天体表面のレゴリス(砂礫)が表面更新されるために必要な時間スケールを見積もるモデルの構築を行った.これにより小天体表面でのレゴリス更新時間がその衝突寿命より十分短くなる可能性が高いことを明らかにし,論文として発表した.また,粉体振動層中の内部圧力構造を推定するための実験も実施し,実験結果より非自明な圧力スケーリング関係を導くことに成功した.この成果についても論文を発表した.また,2次元粉体振動層中での粒子の(並進的)対流運動と同時に各粒子の(個別)回転運動の状況を明らかにする実験も行い,データを取得し現在解析を進めている.更に,本研究開始以前に得られた研究成果等も含めて,本研究のトピックと直接的につながる内容の英文書籍についても本年度出版した. 実際の天体表面地形の解析研究としては,月周回衛星「かぐや」の画像,地形データを用いて,同程度のサイズを持ちながら形成年代の異なると思われる月面クレーターをピックアップし,その地形プロファイルの比較を行った.その結果,クレーター地形の緩和度を表す指標としてクレーター内壁の斜度が適切であることが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新規実験系の開発については,当初想定していた衝突もしくは振動による粉体地形緩和の観察のうち,とくに振動による緩和に注目することとした.これは衝突実験のための装置開発がより複雑でコストも大きくなることを勘案したためであるが,振動による緩和を計測する系の開発は順調に行うことができた.また,衝突に関する実験を回避した代わりに,粉体振動層の研究を当初想定以上に推進することに成功した.具体的には3次元粉体振動層内部での圧力スケーリングの定量化および2次元粉体振動層内部での粒子の流動状態を並進・回転成分を組み合わせて計測する手法の開発に成功した.この計測においては特に光弾性粒子を用いた実験系を開発したため,今後は粒子間にかかる力の鎖状構造と粒子流動との関連についても解析が可能となる.実験系開発の計画は一部変更となったが,現状で得られている成果はほぼ当初計画のレベルにあると言える. 本研究開始以前から着手していた研究についても本研究の開始を受けて加速度的に進展した.たとえば,これまでの申請者らの研究から明らかになっていた粉体対流の速度スケーリングを,その他の先行研究の結果と組み合わせて小天体表面のレゴリス更新時間の推定に成功し,成果は論文により発表した.また,天体地形とソフトマター物理学の接点を意識した英文専門書籍についても本研究の成果を一部採用したものを出版した. 探査データ解析においても,データ収集と解析ツールの整備が順調に進んだこともあり,計画していたクレーター形状のピックアップとその系統的解析を問題なく実施することができた.また,クレーター地形の緩和度の定量的な指標化にも成功した. 以上より,本研究はおおむね順調に進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
実験研究については,これまで開発した実験系を用いて系統的データ取得とデータの解析に取り組む.粉体円錐の振動による緩和がほぼ拡散的となることがこれまでの予備実験で明らかとなったので,特に拡散係数がどのようなパラメータ依存性を示すか実験的に明らかにすることに注力する.変化させるパラメータとしては,粒子の粒径,形状,密度,表面状態,初期円錐の直径,振動の加速度・振幅などを想定している.拡散係数のこれらのパラメータへの依存性をスケールに依存しない形で(無次元数表示等により)求めることにより,天体地形の緩和などとの比較に有用となる表式を実験的に求めることが解析の目標となる.この問題は粉体物理の基礎としても未解決問題であり,基礎物理的側面と惑星科学的応用の両方を目指して実験研究を進めていく. また,昨年度から取り組み始めた光弾性粒子を用いた2次元粉体振動層に関する実験の解析も同時に進める.昨年度までで実験データの取得は完了しているので主に解析と解釈に集中する.粉体対流は小天体表面のレゴリス(砂礫)の流動の一部として起こりえる現象として考えられており,そのダイナミクスを詳細に理解することは粉体物理,惑星科学の両者にとって有用となる.その他,地形のダイナミクスに関する邦文書籍を分担執筆する予定であり,本研究での成果を取り込みつつ成果の公表にもつとめていく. 探査データ解析については,個々のクレーター地形の緩和度を定量化が可能となったことから,今後はクレーター形成年代との比較によって,実際の天体表面での地形緩和の時間スケールを決定することに注力する.クレーターの形成年代の推定には,クレーター年代学を用いる予定である. 本年度は,夏季に関連研究者による研究会を実施し,これまでの実験,探査データ解析の結果の統合,また連携研究者を交えての理論的解釈の強化についても取り組み始める予定としている.
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Research Products
(20 results)