2015 Fiscal Year Annual Research Report
膜外刺激によって誘起される脂質二重膜のダイナミクス
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15H03708
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷口 貴志 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60293669)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ソフトマター物理学 / 計算物理 / 統計力学 / 脂質 / ミクロ相分離 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,脂質膜外からの刺激による膜の機能発現を物理の視点からの解明することを目的としている. 具体的には,次の2つ問題:(1)膜外の物質が膜上の脂質に結合するという刺激(局所的刺激)が膜の動的な変化を引き起こす機構と(2)膜外部の特定の化学物質場の刺激(大域的刺激)に誘起される膜の大変形を代表的な問題として取り上げ,その機構解明を行う. 本年度は,このような刺激に応答する脂質膜を記述するミニマム・モデルを構築に取り組み,そのモデルを解くための「数値計算方法」を開発をおこなった. 局所的な刺激に対する応答の研究では,(a) 膜組成の熱揺搖動の効果,(b) 膜上に存在する受容体の拡散・会合の効果,(c) 受容体が膜の局所組成に及ぼす影響(受容体と脂質の相互作用)について膜のモデル化とそれらの効果を取り入れたプログラムを開発した。また,外部から添加された糖脂質 (GM1) がマクロ相分離したDPPC,DOPC,コレステロール混合膜のDPPC-rich ドメインとDOPC-rich ドメインに入り込むことにより起こるミクロ相分離現象の研究を進めた.通常の相分離ダイナミクスは,無秩序状態からマクロ,もしくはミクロ相分離を起こすのに対して,この系ではマクロ相分離した状態からミクロ相分離上へ膜のドメイン構造が変化するものであり,相分離ダイナミクスの通常の観点から考えると,全く特異な相転移ダイナミクスであるといえる.この現象は,GM1によって誘起される非対称な自発曲率によるものであることを明らかにした. 一方,大域的刺激に対する膜の応答に関する研究については,膜外の化学物質の濃度場のダイナミクスを膜の変形ダイナミクスとを同時に扱い易いPhase Field法を拡張した計算手法の基礎となる理論式の導出をすすめることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
27年度は,局所的な刺激に対する膜の応答を扱う問題で,次の3つ項目:(a) 膜組成の熱揺搖動の効果,(b) 膜上に存在する受容体の拡散・会合の効果,(c) 受容体が膜の局所組成に及ぼす影響(受容体と脂質の相互作用)について膜のモデル化を行う計画で, ほぼ計画通り順調にモデル化をすすめるめることができた.また,大域的刺激に対する膜の応答ダイナミクスについては,別手法であるPhase-Field 法を用いた方法の理論式の構築がすすんでおり,おおむね当初の計画どおり研究を進められている.加えて,局所的な刺激に対する膜の応答現象の応用展開の1つとして29年度に本格的に行う予定として考えていた「GM1(糖脂質)を膜外部の溶液に添加した場合に,GM1が二重膜の外膜に取り込まれて膜の変形を引き起こす現象の研究」が予想外に進み,GM1によって誘起される特異な相分離ダイナミクスの解明という成果を上げることができた.以上のように,研究はほぼ計画通り進んでおり,おおむね順調な進捗状況と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
H27年度の研究の進捗状況はおおむね順調であったため,当初の計画に基づき, 以下のように研究をすすめる. 「局所刺激に対する膜の応答」については,前年に開発した数値計算プログラムを用いて,広範囲なパラメータ領域の数値計算を行う.合わせてモデルの改良も進める. さらに,前年度に開発したプログラムを用いた数値計算プログラムに,連携研究者らの粒子法の知見を取り入れ,受容体(膜上にある粒子と捉える)のダイナミクスの研究を押し進める.特に,以下で述べるリガンドと結合した受容体の膜上拡散と会合・解離のダイナミクスを調べ受容体会合がミクロなスケールの局所ドメイン形成にどのように関係しているかを調べる. 「大域的刺激による膜変形」については,変形できる格子を用いた方法だけではなく,物質場ダイナミクスの記述と整合性のよいPhase Field 法を用いた方法の開発と展開をさらに進める.これによって,多成分脂質膜の変形と膜外の物質場の流動拡散現象を合わせて解き,それらの結合を考えることで大域的刺激による膜組成分布への効果を調べる. また,引き続き,他の外部刺激による膜変形と相転移現象についても研究を行う.
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Research Products
(4 results)