2016 Fiscal Year Annual Research Report
Dynamics of the Ryukyu Current System and its role in the material circulation in the North Pacific
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15H03725
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
中村 啓彦 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 教授 (50284914)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
仁科 文子 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 助教 (80311885)
加古 真一郎 鹿児島大学, 理工学域工学系, 助教 (60709624)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 琉球海流 / 黒潮 / 北太平洋中層水 / 季節変動 / 北太平洋子午面循環 / 係留観測 / 国際共同観測 / JKRYCSS |
Outline of Annual Research Achievements |
琉球海流は,北太平洋中層水の循環経路上に位置するため,北太平洋の熱や物質輸送に対して重要な役割を果たす。しかし,琉球海流の源流域での流動と水塊構造は不明である。本研究は,日中韓の国際共同観測として,H27年6月~H29年6月まで琉球海流の源流域で係留流速観測と水質調査を行い,流動と水塊構造の実態を把握するとともに,既存観測データの解析と数値計算を組み合わせて,琉球海流の形成・変動力学,さらに琉球海流が北太平洋中層水の循環に果たす役割を明らかにすることを目的とする。係留観測網は,沖縄トラフの黒潮流域にも及んでおり,琉球海流と黒潮の同時観測を通して,より総合的に琉球海流の変動様式が理解できるように設計されている。 H28年度は,以下の観測を実施した。6月4~19日の期間,「かごしま丸」による海洋観測を実施し,宮古島周辺の琉球海流と黒潮内で5系の流速計付係留系を回収・再設置した。回収した流速計のデータはすべて良好であり,1年目の係留観測は成功した。流速データの詳細な解析は,H29年6月の2年目の観測終了後に行う予定である。一方,航海中に悪天に見舞われたため,水質調査については部分的にしか実施できなかった。 既存データの解析として,FORA再解析データ(1982~2012)の解析を進めた。その結果,東シナ海の黒潮と琉球海流では流速の季節変動が逆位相であることが分かった。この原因として,前者は北東アジア季節風に対する沿岸での海洋応答が重要であり,後者は偏西風/貿易風に対する沖合での海洋応答が重要であることが示唆された。さらに,等密度面上での流跡線解析(粒子追跡)によって,沖縄トラフの深層へは,琉球海流が弱いときは亜寒帯の海水が流入し,琉球海流が強いときは南シナ海の海水が流入するという2パターンあることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H28年度計画として,当初予定していた(1)「かごしま丸」による観測,(2)既存観測データの解析について一定の成果を収めることができた。 (1)については,悪天に悩まされ水質調査が十分にできなかったものの,全5系の係留系をトラブルなく回収し再設置することができた。回収されたデータを用いて,当初の計画通り,琉球海流の断面流速分布の時系列を作成することができる。 (2)については,FORA再解析データの解析から,東シナ海の黒潮と琉球海流では季節変動の位相が逆であることが示された。この事実は,再解析データに基づくものなので,今後,観測データによる裏付けが求められるが,示された事実の新規性は高い。さらに,その原因についても,おおよその力学仮説を構築することができた。この研究は、H29年度に論文を投稿できるレベルに達した。一方,等密度面上の流跡席線解析からは,琉球海流の強弱によって沖縄トラフ深層に流入する海水の起源が異なることが示された。この事実は,琉球海流が北太平洋中層の物質輸送に強く貢献していることを示唆しており興味深い。今後は,流跡線解析と水塊解析を組み合わせ,琉球海流の強弱と沖縄トラフ深層の水塊変化の関係を調べる必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り,(1)「かごしま丸」による観測,(2)既存観測データの解析,(3)数値計算を引き続き進める。 (1)今年度は2年間の係留観測の最終年度にあたる。「かごしま丸」航海をH29年6月3~18日に実施し,現在設置中の5系の係留系および7台のC-PIESをすべて回収する。しかし,昨年度実施した再解析データの解析から,黒潮と琉球海流では流量の季節変動が逆位相であることが示唆されたため,直接観測で事実関係を確認するために2系の係留流系を再設置する。そのための予算は,共同観測機関である韓国海洋科学技術院から支援される。回収された係留系の流速データを利用して,琉球海流の断面流速分布の時系列(2年間)を作成し解析する。ただし,C-PIESで取得されたデータは,データ処理が複雑なため結果が得られるまでに1年程度の時間がかかる。また,昨年度のかごしま丸観測では,荒天回避の理由で割愛されたCTD観測を実施し,琉球海流系の水質の時空間変動特性に関するデータを蓄積する。 (2)既存データ解析として,初年度から始めたFORA再解析データによる琉球海流系の形成・変動力学と北太平洋中層水の子午面循環に果たす役割に関する解析を進める。前者の解析では,季節~経年変動に対する地形性ロスビー波の重要性が明らかになってきたので,中規模渦の役割を明確にして年度内での論文投稿を目指す。また,後者の解析では,昨年度行った密度面上での流跡線解析(粒子追跡)を再検討するとともに流量収支解析を合わせて行い,水塊の移動経路,変質と湧昇過程に迫る予定である。(3)の数値計算については,既存データ解析の状況に照らし合わせて実施計画を立てる。
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Research Products
(8 results)