2017 Fiscal Year Annual Research Report
遷移金属―ケイ素・ゲルマニウム多重結合の反応性の特徴を活かした分子変換反応の開発
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15H03782
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
飛田 博実 東北大学, 理学研究科, 教授 (30180160)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 有機金属錯体 / シリリン錯体 / シリレン錯体 / ゲルミリン錯体 / タングステン錯体 / モリブデン錯体 / ルテニウム錯体 / 環化付加反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) シリリンタングステン錯体は様々なアルキンとの[2+2]環化付加反応を起こし,シラメタラシクロブタジエンを与えることを見出した。生成物のX線結晶構造解析およびNMRデータから,生成物の四員環骨格には,タングステンが負に,β-炭素が正に分極し,ケイ素とα-炭素間に結合を持つ双性イオン型の極限構造の寄与もあることが分かった。 (2) シリリンタングステン錯体と同様の方法で,シリリンモリブデン錯体の合成に成功した。生成物は,タングステン類縁体と同様に,結晶中では二つのイソカルボニル配位子を含む八員環型の二量体構造を取っている。一方,溶液中では二量体と単量体との速い解離平衡にあるが,興味深いことに平衡はモリブデン類縁体の方が大きく単量体側に偏っていることを明らかにした。 (3) ヒドリド(ジアルキルシリレン)ルテニウム錯体が,ケトン,エステルおよびアルデヒドのヒドロシリル化反応の触媒となることを見出した。アルデヒドとジヒドロシランとの反応の場合,二つのアルデヒドが取り込まれてジアルコキシシランが生成するが,アルデヒドの置換基として嵩高いメシチル基を用いると,予想に反して嵩の低いアルデヒドよりも反応速度が大きく増加することが分かった。 (4) イミダゾリウミル基を持つカチオン性ゲルミリンタングステン錯体は,中性のゲルミリン錯体よりも反応性の高いW≡Ge三重結合を持ち,極性分子だけでなく極性の小さなアルキンやピリジン等の不飽和有機分子とも容易に反応して,特異な環化付加生成物を与えることを見出した。 (5) シリリン錯体合成の中間体であるアニオン性シリレンタングステン錯体は,中性のシリレン錯体よりも反応性の高いW=Si二重結合を持ち,アリールアルデヒドおよび末端アルキンと室温で反応して,いずれも[2+2]環化付加生成物を与えることを,X線結晶構造解析により確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の交付申請書に記載した3つの研究計画を全て実施し,このうちスズを含む錯体の合成以外の研究は順調に進展している。これらの他に,継続して研究を行っているシリリンタングステン錯体の反応,および新しいシリリンモリブデン錯体の合成と性質に関して,多くの新しい興味深い成果が得られた。さらに,シリレン錯体の触媒としての利用に関する研究も大きく進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き,研究計画調書を基礎として,より具体化して立てた交付申請書の研究計画に沿って研究を進める方針に変わりはない。平成30年度もまた新しいタイプの金属―ケイ素・ゲルマニウム多重結合錯体の合成,構造および反応に重点を置いて研究を行う。さらに,新しいタイプのキレート配位子やピンサー配位子の一部にゲルミレンなどを取り込んだ錯体の合成などにも力を入れ,最終的には金属―ケイ素・ゲルマニウム多重結合錯体が行う反応の分類と機構解明,さらにこれらの錯体を触媒とした新しい触媒反応の開発を目指す。
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Research Products
(8 results)