2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H03791
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
芥川 智行 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (60271631)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
綱島 亮 山口大学, 創成科学研究科, 准教授 (70466431)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | プロトン伝導 / 水素結合 / ネットワーク / ラチェット / リン酸 / キラルアミン / チューブ / ラメラ |
Outline of Annual Research Achievements |
分子性結晶内のプロトン移動の制御から、スーパープロトンリレー材料を創製する事を目的とした。本年度は、酸-塩基型の(Anilinium+)(H2PO4-)と水素結合性超分子チューブに代表される分子性材料に着目し、プロトンリレー格子の構造・空間制御に関する研究を試みた。分子性のスーパープロトンリレー材料の整流特性の設計を目的に、酸-塩基型の分子間水素結合性結晶である(キラルアンモニウム)(H2PO4-)塩の単結晶を作製し、その結晶構造の詳細をプロトンネットワークと輸送パス形成の観点から検討し、プロトン伝導度の異方性およびプロトンラチェットの実現に関する検討を実施した。4種類のR-およびS-立体構造を有するベンゼンおよびシクロヘキサン誘導体からなるアンモニウム塩をリン酸一水素アニオンと組み合わせた1:1塩を作製し、その相転移挙動・結晶構造・インピーダンス測定を試みた。結果、不可逆な相転移挙動に対応する誘電異常を伴うプロトン伝導性の出現を確認した。これは、結晶内におけるキラルな分子配列に伴うプロトン配置の乱れを反映した整流効果であると推定される。また、アルキルアミド置換型のイソフタル酸が形成する水素結合性6量体は約1 nmの直径の内部空間を有し、それが分子間アミド水素結合により連結した中空チューブ構造が設計可能である。チューブ内には、水分子が占有しており、加熱により水分子の脱着が可能である。チューブ状の水素結合性超分子構造は、水-アルコール溶媒でゲルを形成し、さらにディスコチックヘキサゴナルカラムナー液晶相を発現する。このチューブ内を新たなスーパープロトンリレー材料創製のための伝導パスとして用いる研究を実施した。本年度は、超分子チューブ構造を形成するのに必要なアルキルアミド鎖に関する検討を試み、アルキル鎖長に依存してその超分子構造がラメラ型からチューブ型に変化する事を見いだした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
酸―塩基型の(アンモニウムカチオン)(H2PO4-)塩を用いたプロトンリレー格子の構造・空間制御に関しては、その実現に大きなインパクトがある”プロトンラチェット”の概念を取り入れた、一方向プロトン輸送に関する検討を実施できた点を高く評価できる。(キラルアンモニウム)(H2PO4-)塩の単結晶におけるキラル結晶空間の設計が、現実に可能であることを実験的に示し、さらに単結晶試料を用いたプロトン伝導度の異方性の測定から、不可逆な相転移挙動に対応する誘電異常を伴う高いプロトン伝導性を確認した。これは、結晶内におけるキラル分子配列に起因するプロトン配置の乱れを起源とするプロトン整流効果と示唆されるが、その確証を得るためのさらなる検討が必要である。整流効果発現前後の単結晶構造解析による、詳細な結晶構造の検討を課題としてあげる。また、アルキルアミド置換型のイソフタル酸が形成する水素結合性6量体が形成する分子間アミド水素結合により連結した中空チューブ構造の設計に成功したのは、大きな研究成果である。より高いプロトン伝導度を実現するには、比較的大きな空間内でのプロトン運動の自由度確保が重要と考えられる。水素結合ネットワークを伝わるグロッタス機構とは異なり、直径1 nmのチューブ内空間におけるプロトン伝導性の実現は、内部を占有する水分子を介した新たなプロトンリレー格子を創製できる。また、超分子チューブ構造を形成するのに必要なアルキルアミド鎖に関する分子設計指針を提出し、今後、ラメラ型およびチューブ型超分子構造を制御する手法を確立した点は、大きな研究の進展であった。チューブ型の水素結合性超分子構造体に、積極的にキャリアを導入しプロトン伝導性の評価を実施する。研究の最終年度にむけて、基礎データの収集が終了したと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度は、分子性のスーパープロトンリレー材料に反転対称性の崩れたキラル構造の導入によるプロトンラチェット機構の導入を、(キラルアンモニウム)(H2PO4-)塩に着目して、4種類の単結晶を作製した。また、その単結晶X線結晶構造解析、DSCによる相転移物性およびインピーダンス測定の異方性から、不可逆な熱異常と高いプロトン伝導性の出現を確認した。これは、再現性良く観測される興味深い現象であるが、そのミクロな起源に関しては残念ながら未解明である。29年度は、この不可逆な相転移前後の精密結晶構造解析によりプロトン配置の詳細な検討に取り組む。特に、プロトン伝導性の異方性の起源となる、O-H~O水素結合内の分子間プロトン移動に関するポテンシャルエネルギー曲線の対称性に関する検討から、プロトンラチェット機構による輸送特性の出現に関する確証を得る。また、水素結合型超分子ナノチューブ集合体に関しては、チューブ内部の水空間にHCl、HBr、HIなどのキャリアを導入する事で、キャリア量とプロトン伝導性の相関に関する検討を実施する。ハロゲンアニオンのサイズを段階的に変化させる事は、プロトンキャリアの運動自由度に変調を与えると予測され、その輸送特性が制御可能となる。また、山口大学で開発を進めているポリ酸結晶のプロトン塩に関しても引き続き検討を進め、有機カチオン構造とのハイブリッド塩を用いたスーパープロトンリレー格子の構築を試みる。
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Research Products
(50 results)