2015 Fiscal Year Annual Research Report
強誘電性液晶の異常光起電力効果を利用した新規光電変換材料の開発
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15H03797
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
舟橋 正浩 香川大学, 工学部, 教授 (90262287)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 異常光起電力効果 / 液晶性半導体 / オリゴチオフェン / 強誘電性液晶 / ホール輸送 / 自発分極 / ナノ相分離 / オリゴシロキサン |
Outline of Annual Research Achievements |
従来の太陽電池は、p-n接合による内部電界を利用して電荷分離と輸送を行っているため、開放電圧はバンドギャップに支配されていた。強誘電体の自発分極に由来する内部電界を利用すれば、バンドギャップを超える開放電圧を有する高効率の光電変換素子(太陽電池)を実現できる。強誘電体は通常絶縁体であるが、強誘電性液晶にπ電子共役系を導入すると、強誘電性と光伝導性を兼ね備えた材料を得ることができる。本研究では、強誘電性とホール輸送性を示す液晶性フェニルターチオフェン誘導体を薄膜化し、外部電場0での光起電力効果(異常光起電力効果)を検討する。 H27年度は、アルキル鎖末端にジシロキサン鎖、シクロテトラシロキサン環を導入したフェニルターチオフェン誘導体を合成し、それらの化合物の液晶性、強誘電性、ホール輸送性、光起電力効果を検討した。その結果、強誘電相において、自発分極、ホール移動度と、電場0での光電流との間に相関性がみられ、電場0での光起電力効果が、強誘電相の自発分極とホール輸送性に由来することが明らかとなった。また、強誘電性液晶のR体、および、S体エナンチオマーの合成を行った。R体とS体の混合比を変化させて光起電力効果を測定したところ、光学活性体では明確な光起電力効果が観測されるのに対し、ラセミ体では明確な光伝導性が観測されなかったことから、本起電力効果がキラリティーに由来する自発分極によって生じていることが明らかとなった。また、異常光起電力効果の増強のためには、数百mm程度の厚さの薄膜を作製する必要がある。そこで、スピンコート法による製膜を検討した。側鎖にアルキル鎖や直鎖のシロキサン鎖を有する化合物は薄膜作製中に結晶化し、均一な薄膜を得ることができなかった。そこで、側鎖末端に嵩高く、重合性の環状シロキサン部位を有する液晶化合物を合成し、スピンコートしたところ、均一な薄膜を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、強誘電液晶性半導体の異常光起電力効果を利用した新しいタイプの有機薄膜光電変換素子を開発する。これまで、フェニルターチオフェン骨格を有する強誘電液晶性半導体を合成している。ホール移動度は10-4 cm2/Vsのオーダーであり、自発分極は100 nC/cm2を越える。しかし、外部電界0の状態では、配向緩和が起こり、自発分極が十分に保持されない。そのため、その光電流は非常に微弱であり、変換効率は0.1 %程度である。この低い変換効率を向上させるために、1. 強誘電性液晶薄膜をスピンコート法で作製し、電極/液晶相界面の相互作用を利用して、分極状態の安定化を検討する、および、2. n-型液晶性半導体との複合化による、光キャリア生成の効率化と分光増感による光電変換効率の向上を検討する。 H27年度の検討により、異常光起電力効果の起源が、不純物イオンの分極に由来するものではなく、キラリティーによって引き起こされる強誘電性に基づく内部電界であることが明らかになった。また、薄膜状態での物性評価は十分に検討できていないものの、均一な液晶性薄膜が作成可能な強誘電性液晶半導体を合成することができた。また、重合性のシクロテトラシロキサン環を有するフェニルターチオフェンの合成を達成し、液晶性、強誘電性、ホール輸送性の評価を完了し、酸触媒による重合を確認している。その結果、原著論文2報、関連論文2報、関連総説を1報出版できた。 故に、(2)概ね順調に進行している、と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
強誘電性液晶相での自発分極の緩和を抑制するため、らせんピッチよりも薄い薄膜を作成し、電極界面の相互作用を利用することが有効である。通常の強誘電性液晶は室温で結晶化するため、溶液プロセスによって均一な薄膜を作成することが困難である。H27年度の検討から、側鎖末端にシクロテトラシロキサン環を有するフェニルターチオフェン誘導体を用いることにより、スピンコート法を用いて、均一な液晶性薄膜を作製できることを確認している。この化合物を用いて、薄膜状態での強誘電性、ホール輸送性、異常光起電力効果の評価を進める。また、酸蒸気暴露による薄膜状態でのin situ開環重合をおこない、薄膜の固定化・安定化、および、自発分極の緩和抑制を検討する。 現在、使用している強誘電性液晶は、あくまでもモデル化合物であり、可視域に強い吸収を持たないため、エネルギー変換効率は1 %に満たない。分光増感によるエネルギー変換効率の向上を狙い、ペリレンテトラカルボン酸ビスイミド誘導体やレムケ色素を増感色素として、液晶性フェニルターチオフェンに添加し、光起電力効果の増強を試みる。 強誘電相であるキラルスメクティックC相では、分子のパッキングが密でないため、キャリア移動度が10-4 cm2/Vsのオーダーにとどまっている。低温側で出現する高次のスメクティック相では、分子のパッキングが密になるため、一桁以上高いキャリア移動度が期待できる。そこで、キラルスメクティックC相で直流電圧を印加しながら冷却することにより、高次のスメクティック相での自発分極の固定化を検討する。
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Research Products
(15 results)