2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H03801
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
中西 尚志 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, グループリーダー (40391221)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 液体 / アントラセン / ピレン / 過冷却現象 / レオロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者が世界の第一人者となり探求を進めるπ共役系機能性分子液体に関して、その液体「相」としての物性理解は未だ不十分である。本研究では液体相に潜むナノ組織構造の存在や過冷却液体現象を誘起する要因等を明らかとし、新たな液体分子材料創成への分子設計・材料設計への指針を生み出すことを目標としている。 H27年度予算における実施内容としては、主にアルキル化アントラセンの示す過冷却現象の理解を基に、過冷却現象を示さない、熱力学的に安定なアントラセン液体分子の創成戦略を検討した。具体的には、ジフェニルアントラセンに導入する分岐アルキル鎖の長さを変化させ、それら分子の相転移挙動を調査した。この中で、過冷却現象を示す液体と熱力学的に安定な液体の分類が可能となった。液体としての熱相転移挙動と分子構造、液体物性相関を明らかとするために、レオロジー測定において液体状態における粘度を調査した。その結果、粘性の高い液体では固化現象は抑制され、粘性の低い(長い分岐アルキル鎖)分子は結晶化のプロセスが生じることが分かった。つまり、結晶化する分子組織構造へ構造変化が容易な、粘性の低い状態は、本アルキル化アントラセン液体においては好ましくないと言える。さらに分子構造、結晶化組織構造、発光機能までの相関をある程度明らかにした。 ついで、上記アントラセン系を参考にアルキル化ピレン液体の創成に着手した。特に、導入するアルキル鎖を分子軸に対し対象にした場合、過冷却現象を示す速度論的にトラップされた準安定液体状態を採りやすくなることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H27年度実施予定であったアントラセン液体の相転移挙動の検討、ついで新規液体ピレンの設計・合成、ならびに相転移挙動の検討に際し、アントラセン液体の相転移挙動、特には結晶化過程が予想以上に時間を要すこととなり、同時にその解析にも多大な時間を要した。その影響により、アルキル化アントラセン液体の相転移挙動の全容を解明するために、H28年度までの繰越を行い、アントラセン液体の挙動をおおかた把握できた時点で、新規液体ピレンの創成に着手するに至った。 最終的には、何れの系においても分子構造と液体物性、熱相転移挙動との相関が良好に得られており、その他の機能性π共役系分子の液状化戦略に有意義な知見を蓄積することができた。 やや遅れていると判断した理由としては、まだ学術論文として本結果の最終的な部分を発表できていないことにある。一部の成果に関しては既に学会・論文発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
熱力学的に安定な液体として判断する基準設定にはまだ課題が残っている。現状は室温で放置して数ヶ月以上安定であり、DSC測定における温度の上げ下げに対して低温でのガラス転移の他に転移を示さないものを安定な液体としている。とてつもなく遅い結晶化プロセスを含む場合、現状の実験条件、タイムスパンでは判断ができない。長期的な材料のモニタリング解析をルーチン化するなどの対策が求められる。 過冷却状態から加熱結晶化を引き起こす際、発熱反応となることから、本プロセスで生じるエネルギーを利活用する材料加工の概念設計ができると有効となるであろう。 今回、アルキル化π共役分子液体のモデル系として、アントラセンとピレンといったベンゼン環が3つないし4つ縮環した分子を用いたが、より小さなナフタレン(ベンゼン環2つ)やより大きなπ共役系分子群に今回の概念がそのまま適応できる否かの実証が必要となる。本方向性に関しては継続して調査していく予定である。
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Research Products
(29 results)