2016 Fiscal Year Annual Research Report
炭素小員環化合物とヘテロ原子の複合利用による高次構造天然物の合成
Project/Area Number |
15H03806
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
谷野 圭持 北海道大学, 理学研究院, 教授 (40217146)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 合成化学 / 有機化学 / 天然物 / 環化反応 / 転位反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、炭素小員環の特徴(歪みエネルギーに由来する高反応性、立体的なコンパクトさ)とヘテロ原子の特性(カルボアニオンおよびカルボカチオン活性種の安定化、多様な官能基への変換)の組み合わせによる独自の反応設計を行い、従来の天然物合成を刷新する効率的合成手法を開発することにある。 初年度から検討を開始した、4員環と6員環がフューズしたビシクロ[4.2.0]オクタン骨格の立体選択的構築法に関連して、以下の新知見が得られた。すなわち、エポキシドの酸素求核剤による開環反応において、4員環骨格を有する化合物であるスクアリン酸のジアニオンが高い反応性を示すことを見出した。酸素求核剤は、酸素原子のHardな性質を反映して塩基性が高い一方、求核性は低い傾向にある。一般には、カルボン酸陰イオンやスーパーオキシドアニオンが酸素求核剤として用いられるが、反応性の低さや適用範囲の狭さが問題となってきた。スクアリン酸(正式名3,4-ジヒドロキシ-1-シクロブテン-1,2-ジオン)は、炭素4員環上に4つの酸素原子を有し、そのジアニオンは共鳴構造と芳香属性により高度に安定化されている。このため、スクアリン酸ジアニオンの塩基性は低く、酸素原子の求核性は高くなっていると考えられる。 一方、これとは独立に2,2-ジビニルシクロブタンカルボニトリルを用いる新たな8員環構築法を見出した。すなわち、この4員環ニトリルから調製したアニオンを環状ケトンに付加させて合成した第3級アルコールを脱水反応の条件に付すと、生じたアルケンからCope転位反応が進行してシクロオクタジエン誘導体が得られる。さらに、このものを無水マレイン酸と共に加熱すると、分子間でDiels-Alder反応が進行し、6-8-5や6-8-6縮環骨格が効率的に構築できた。この知見は、複雑な縮環骨格を有するテルペノイドの合成に応用可能と期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
4員環炭素骨格を有する化合物の、有機合成上の新たな利用法を2通り開発することに成功した。スクアリン酸の酸素求核剤としての利用は、申請時には全く想定していなかった新展開であり、天然物合成には直結しないものの、広範な有機化合物の変換反応に発展する可能性を秘めている。 ジビニルシクロブタンカルボニトリルの環拡大反応については、原理は以前から知られていたものの、反応基質の合成法に問題が残されていた。今回、4員環上のビニル基の立体化学を制御する必要がない方法を開発したことで適用範囲が大幅に拡張され、天然物合成への応用に道筋をつけることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
スクアリン酸を酸素求核剤として用いる反応の適用範囲を拡張し、ハライドのアルコールへの変換の他、エポキシドの開環反応や、アルコールの立体反転への利用を検討する。また、新規な8員環構築法をテルペノイドの全合成研究に応用する。さらに、初年度から継続中の植物ホルモンであるジベレリン類の全合成研究を、最終年度中に完成に導く計画である。
|
Research Products
(8 results)