2016 Fiscal Year Annual Research Report
医療・生活施設における看護・介護負担感軽減と利用者のQOL向上に関する包括的研究
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15H04103
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Research Institution | Tokyo Denki University |
Principal Investigator |
山田 あすか 東京電機大学, 未来科学部, 准教授 (80434710)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古賀 政好 東京電機大学, 未来科学部, 研究員 (20751225)
佐藤 栄治 宇都宮大学, 地域デザイン科学部, 准教授 (40453964)
古賀 誉章 宇都宮大学, 地域デザイン科学部, 准教授 (40514328)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 介護負担感 / 支援負担感 / 看護負担感 / 病棟平面 / ユニット平面 / 動線量 |
Outline of Annual Research Achievements |
我が国では、超高齢・人口減少時代を迎え,医療・高齢者福祉・障碍者福祉の連携・融合による包括的ケアによって高齢者や障碍者,病を持つ人も豊かなQOLが保障される社会の構築が喫緊の課題である。一方,社会保障費の抑制や,看護・介護資源の効率的な活用,また看護・介護職の疲弊の解消のため,単純な動線量等でない,看護・介護者の負担感が注目されている。本研究では,看護・介護負担感に着目した医療施設の入院療養部門,要介護高齢者と障碍者の生活施設の横断的な調査・分析によって,ケア対象者の生活の質の向上と,看護・介護者の負担感の軽減のバランスを支援する建築空間の検討と提言を行う。本研究は,今後の持続可能な社会保障の構築に向けて,今後の施設・サービスの枠組みの再編時にも活用できると考える。 平成28年度には主に,「関東地方と東北地方の総合病院での看護負担感の比較」「ICU病棟での看護負担感調査」「関東全域の高齢者施設・障碍者施設へのユニット平面と介護・支援負担感のアンケート調査」「主たる受け入れ障碍が異なる2つの障碍者生活施設での活動量(歩数や歩行時間など)調査」を行った。 得られた研究成果のうち主たるものとしては,高齢者施設・障碍者施設でホール型居室(リビングなどの共用空間に面する居室)の割合と人数規模/共用部(トイレや廊下など)面積の2軸において介護・支援負担感に各項目との関連がみられたことである。特にホール型居室の割合が高いほど負担であると回答する人がいる。これは従来のユニット計画ガイドラインとしていわゆるホール型の居室構成が見守りのしやすさ,動線の身近さなどの観点から推奨されてきたことと相反する傾向であり,介護・支援負担感という新たな評価軸の導入によって従来と異なるスタッフのニーズが組み上げられたものと考える。具体的な空間構成へのニーズや,適切な居室計画について今後さらに考察を深める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
病院(病棟),高齢者施設,障碍者施設,地域における介護・看護の展開,と広範な調査対象を設定した研究課題であり,調査準備・調査実施を丁寧に行っているため前倒し等は行わず,当初計画通りに研究を進めている。また,特徴的な平面の関連諸施設や先駆的取り組みを行っている事例への見学・ヒアリングも平行して行っており,多面的に調査結果を解釈し適切な成果に結びつけられるよう配慮している。 高齢者施設,障碍者施設でのアンケート調査と活動量調査の結果としては,障がい者や高齢者の入居型施設での建築計画の指針として,ホール型居室だと見守りがしやすく介護・支援の動線も短いとされてきた。しかし本研究での「負担感」という観点からはホール型居室の評価が低く,特に移動動線への評価が低いという非常に特徴的な傾向を得ることができた。今後は今回の結果の背景や要因を探る必要がある。 地域における介護・看護の展開については,昨年度の在宅介護のうち特にサービス提供にかかる移動負担の実態調査に引き続き,在宅介護の事業者側の実施状況を,特定の自治体の介護レセプトを元に分析して,山間部,市街地での比較分析を行なっている。また同地域での高齢者へのアンケート調査から,介護ニーズの分析を行なった。 なお,これまでの調査・分析結果については,国内外の学会において随時投稿・公開されており,研究成果の公開や社会還元という観点からも順調に進展している。また,調査協力機関の関係者や設計者とのディスカッションなどを通して確実な検証を重ねており,研究実施のスピードならびに質ともに,順調に推移していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画は全体として順調に推移していることから,当初計画とは変更なく,主たるテーマである「病棟平面・建築空間構成と看護負担感の関係,患者・看護師視点での評価の差異」,また「患者・利用者のQOLと看護・介護負担感の軽減が調和した平面・建築空間構成への提言」に向けて,利用者属性や職員配置を勘案し,ユニット平面,建築空間構成と日常的な介護負担感の関係の分析を進めていく。 利用者視点での空間構成への評価項目(安心感,プライバシー等)をもとに利用者視点の評価と,介護者視点での評価の差異,看護負担感との関係も分析する。これらから,介護負担感を減じる空間構成,利用者属性に応じた空間構成についての知見の基礎を得るべく,研究を推進する。特に,従来の計画ガイドラインとは異なる傾向が得られてることから,今後は国内外での事例調査を通じて運営状況やスタッフの日常業務の負担感等についてのヒアリングや施設の視察を行う。そしてこれらの事例調査により,ホール型居室の割合が高い場合にスタッフが負担に感じる傾向がみられた背景や要因を探る。 また地域における介護・看護の展開については,介護者の負担度合いを測るため,介護レセプトの継続的分析を進める。山間部では移動の負担度合いを精緻化するとともに,市街地部での 負担度合いを介護サービス提供者にヒアリングする予定である。特に,社会福祉協議会の事業展開,他市への乗り入れ事業者等の調査を進め,研究課題の最終年としてのとりまとめにつなげる。 なお,これまでの研究実績は引き続き精査し,その成果を学術論文誌への投稿等によって公開する。
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Research Products
(10 results)