2015 Fiscal Year Annual Research Report
さび粉末のコールドスプレー溶射による球状黒鉛鋳鉄への耐候性安定さび皮膜の形成
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15H04134
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
成田 一人 九州大学, 工学研究院, 助教 (50404017)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 大和 東北大学, 工学研究科, 准教授 (60396455)
宮原 広郁 九州大学, 工学研究院, 教授 (90264069)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 表面・界面物性 / 複合材料・物性 / コールドスプレー / さび皮膜 / ナノ粒子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,マイクロ波および超音波反応場を用いて合成した金属ナノ粒子を鉄さび粉末上に防食効果促進バインダーとして担持させ,空気を作動ガスとするコールドスプレー装置を用いて球状黒鉛鋳鉄材に溶射し,景観を損なわない緻密な耐候性安定さび皮膜を短時間に形成することを目標とする。そのために,①ナノ粒子を担持したさび粉末の調整,②コールドスプレー装置の改造,③球状黒鉛鋳鉄へのさび皮膜形成効果についての各プロセスを,総合的に研究・開発・評価し,ミニマムメンテナンスで数百年さびないモノづくり環境を構築することが求められる。27年度については,主にナノ粒子の合成と,さび粉末へのナノ粒子の担持に関して研究・開発を実施した。コールドスプレーで作製される皮膜は,出発材料として使用される粉末の状態により,溶射条件が変わる他,歩留まりなどの皮膜形成状態にも影響が生じる。そのため供給するさび粉末の調合は,本研究開発プロセスにおいて最重要課題として位置づけられる。そこで,まずは申請者らがこれまでに超音波(周波数2.45GHz)を用いて合成に成功しており,酸化等の影響が少なく,低環境負荷で扱いやすいAgナノ粒子を用いて,ゲーサイトおよびマグネタイト粉末(粒径数十μm)の表面にAgナノ粒子を超音波により担持させることを試みた。その結果,超音波のキャビテーションを利用して,さび粉末にAgナノ粒子の担持が可能であることが確認された。しかし,現合成条件では,母体であるゲーサイトおよびマグネタイト粉末そのものもキャビテーションで細粒化しており,ペースト状態での使用に適した微粉末に仕上がっている。コールドスプレー用の粉末として使用するためには,今後,超音波の照射条件の調整・最適化を図る必要がある他に,生成物のチクソスラリー化または造粒を検討する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度は,研究代表者の所属機関変更があり,研究実施環境の整備のために当初の計画に比べてやや遅れを生じた。研究環境は変わったが,研究の推進方法や研究体制への影響は少なく,今後も当初の計画に沿ったかたちでの研究の継続を計画している。本研究では,①ナノ粒子を担持したさび粉末の調整,②コールドスプレー装置の改造,③球状黒鉛鋳鉄へのさび皮膜形成効果の検証の各プロセスを総合的に実施し,研究成果を考察することにしている。平成27年度においては,特に①ナノ粒子を担持したさび粉末の調整に力を入れて研究しており,Agナノ粒子の合成と,さび粉末へのAgナノ粒子の担持を実施した。Agナノ粒子の合成には,エタノール中に分散させた酸化銀粉末に20kHzの超音波を照射し,キャビテーション効果による粉末の粉砕および還元反応を用いた。次に,合成したAgナノ粒子粉末をさび粉末であるゲーサイト(黄色)およびマグネタイト(黒色)粉末(粒径数十μm)表面上に担持させるため,Agナノ粒子合成法と同様の方法を用い,超音波による各種粉末の混合・分散を試みた。Agナノ粒子の担持処理後,作製した粉末はすべて黒色に変色しており,顕微鏡観察においても非常に粒度の細かいものが合成できていることが確認された。金属ナノ粒子の合成・担持方法として,超音波のキャビテーションを利用して粉砕していくトップダウン方式が有効であることが示された。Agナノ粒子の合成・担持は,試作での成功であるが,今後の一連の研究を推進する上で重要な知見が本試料の観察結果より得られている。今後は,耐候性を考慮し,たたら鉄および耐候性鋼の組成を参考にして,Cu,Cr,Ni,Ti,Mo,Pなど耐候性への寄与が大きいと考えられる金属ナノ粒子の合成および担持を検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も平成27年度に引き続き,超音波を用いて各種金属ナノ粒子を合成するほか,ゲーサイトまたはマグネタイト粉末(粒径数十μm)表面に,これらナノ粒子の超音波分散による担持を行う。すでにAgナノ粒子の担持については昨年度までに成功しているが,たたら鉄や耐候性鋼に関係する文献等の調査結果より,鉄系材料ではAgとは別の薄膜層の形成が防食性の向上のうえで欠かせないことが分かっている。そこで本年度は,Agとは異なるナノ粒子の合成およびさび粉末(ゲーサイト,マグネタイトなど)への担持に力を入れ研究を実施する予定である。一方,さび粉末皮膜の作製に関して,コールドスプレー装置を稼働させるために1回の実験に1kgの粉末を必要としている。これまでリスク回避のため,ナノ粒子担持さび粉末を超音波合成により少量作製し評価するに留めてきたが,今後は溶射皮膜にした際の物性の評価に重点を置き研究を進めていきたい。ナノ粒子担持さび粉末合成条件についてある程度の最適化が図られた段階で,粉末の多量合成を行い,研究協力先にてコールドスプレー溶射を実施する。溶射時の歩留まり,溶射後の形状および物性を,粉末時と比較・評価する。また,超音波合成により作製したナノ粒子は,再結晶化およびバインダーとして接合する際の温度がバルクのときよりも低いと考えられる。粉末および皮膜の組織変化について電子顕微鏡(SEM, TEMなど)で観察するほか,熱分析装置(DSC,TG-DTAなど)により物性の変化を評価する。防食性能に関して,皮膜中のガス透過性を評価する方法があることを確認しており,従来の複合サイクル試験,防食サイクル試験(CCT試験)と合わせ,実施したいと考えている。なお,超音波合成したさび粉末をペーストとして利用することも検討したいと考えている。
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Research Products
(6 results)