2015 Fiscal Year Annual Research Report
機能キャリアとしての多価帯電ミストの蒸発・分裂ダイナミクス
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15H04171
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
瀬戸 章文 金沢大学, 自然システム学系, 教授 (40344155)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大谷 吉生 金沢大学, 自然システム学系, 教授 (10152175)
東 秀憲 金沢大学, 自然システム学系, 准教授 (40294889)
折井 孝彰 国立研究開発法人理化学研究所, イノベーション創成センター, 研究員 (60321741)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 薄膜・微粒子形成操作 / 静電噴霧 / イオン / 液滴 / 分子シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
静電スプレーで噴霧された多価帯電ミストは,蒸発,レイリー分裂,イオン放出等の過程を経て,分子イオンとナノ粒子を生成する。本課題では,産官学が連携して,静電スプレーで生成する多価帯電ミストを「機能物質を内包するキャリア」として,搬送・機能発現する次世代空気浄化法の実現を目指す。そのために本課題では,機能キャリアとしての多価帯電ミストを起源としたイオンとナノ粒子の生成過程(=蒸発・分裂過程)を明らかにするツールとモデルの開発を行っている。初年度である平成27年度は,1)多価帯電ミストのダイナミクス(蒸発・分裂・帯電量変化)の計測ツール開発および、2)多価帯電ミストからのイオン放出と,ナノ粒子生成過程のモデル化について、以下の研究実績を得た。 まず、1)では,高速に変化する多価帯電ミストの粒径分布と帯電量を,その場(in situ)計測できる装置について基礎設計を行った。ミストの蒸発・分裂による粒径分布変化を装置内でダイレクトに計測するために,理化学研究所で最近開発された平行平板型モビリティーアナライザを改良し,金沢大学で開発してきた静電スプレー技術を融合することで,動作温度(≒蒸発速度)が制御可能な新規装置を設計・試作した。 2)では,従来の帯電液滴の分裂理論(限界帯電量モデル)の適用限界を明らかにし,分子動力学シミュレーションを用いてイオン放出,ナノ粒子析出過程を分子レベルで解析している。今年度は,イオン性の溶質を含む水分子が1000個程度の液滴の蒸発に関する分子シミュレーションを行い,多価に帯電した液滴の蒸発過程の解析を可能とした。 今後これらの実験とシミュレーションを統合し、多価帯電液滴からのイオン生成に関する基礎現象の解明を試みる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
機能キャリアとしての多価帯電ミストの蒸発・分裂に伴うダイナミクスを解明するために,in situ計測を可能とする新規モビリティーアナライザの開発(課題1;計測ツール開発)と,分子動力学計算を援用したミスト分裂過程のモデル化(課題2;モデル構築)を行った。初年度であるH27年度は、まずプロトタイプ装置を試作し,常温において標準物質を用いた装置校正を行うとともに,多価帯電ミストの帯電量と粒径の同時変化に対する液滴分裂モデルの適用限界を検証した。 まず、標準物質としてポリエチレングリコール(PEG)を用いて静電噴霧によって多価帯電分子イオンを生成し、そのモビリティー分布を、試作した装置を用いて計測し,従来装置での装置性能(分解能,測定サイズ範囲)と比較・検証した。 つぎに,計測装置内部(静電分級ゾーン)で静電スプレーを行い,ミストのサイズが変化しながら静電場中をドリフトすることで,中間生成物として得られるイオンやナノ粒子のモビリティー分布を時間分解能的に求める。このための帯電液滴の蒸発速度を理論計算により求め、実験条件を明らかにした。 一方,課題2では,上述の実験で得られた帯電ミストのサイズ,帯電量の時間変化を説明できるモデルを構築する。今年度,従来の液滴分裂の古典的なモデル(レイリー分裂モデル)を中心に,課題1で得られた実験結果と比較し,ナノ領域におけるレイリー分裂モデルの適用限界を検証した。このことにより、多価帯電の蒸発速度が古典論では説明できないことが明らかとなった。そこで,分子動力学シミュレーション(粒子数1,000個程度)によって,このイオン放出過程を解析し,直径数ナノメートルのミストに対して,表面の電荷とイオンの放出の初期過程の検討を開始した。 このように、実験・理論ともに概ね順調に研究は進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終目標は,初期生成物(多価帯電ミスト)と最終生成物(イオン,ナノ粒子)の中間をつなぐ,ダイナミクスを提案することである。このために,次年度以降は,まず,低温下での動作を可能とするモビリティーアナライザの開発が最も大きな課題となる。このために,装置周りに冷却設備を導入するとともに,均一な温度分布が達成できるような装置改良を行う。 本年度の成果から、静電スプレーで生成したイオンやナノ粒子の分級・計測に関しても十分な準備状況にあり,今後は装置内部での静電スプレーとの接合インターフェイス開発や,装置の低温動作の実現などに取り組む。高速に変化する多価帯電ミストの帯電量とサイズに追随する計測ツール開発のための研究戦略は,①装置の低温動作,②溶媒の調整,および③帯電量の積極的制御の3つである。 ①低温動作のための改良として,まずペルチェ素子などの電子冷却装置の適用を試みるが,装置内部の温度が不均一となり,気流の対流に影響を与える可能性も考えられるので,その場合は,冷媒を用いたジャケットによって装置内部温度の均一化を試みる。つぎに②溶媒調整としては,現状の水-メタノール系では(0℃で600Pa以上)と蒸気圧が高いため分級部(滞留時間1秒以下)におけるミストの粒径変化に応答が追随できない可能性がある。そこで,エチレングリコール(2℃で1Pa程度)などの半揮発性溶媒の使用についても検討し,それらが安定して静電スプレーできる条件(温度,印加電圧,流量,イオン化促進剤の添加)を探索する。さらに③帯電量の制御として,装置内部にイオン発生素子(提案者らが開発したマイクロプラズマ素子)を複合化し,静電スプレーで噴霧直後の多価帯電液滴にイオンを混合し,帯電量の制御を行う。このことにより,液滴の分裂過程に与える表面電荷の影響が,液滴サイズと独立して詳細に評価できる。
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Research Products
(6 results)