2015 Fiscal Year Annual Research Report
神経細胞の生命情報の多様化を制御するRNA情報発現メカニズムと機能解明
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15H04277
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
飯島 崇利 東海大学, 創造科学技術研究機構, 准教授 (90383702)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 選択的スプライシング / 神経細胞 / RNA結合タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
成人脳では約1000億個にも及ぶ神経細胞が複雑かつ精密なネットワークをつくる。複雑な脳構造の構築と高次機能の発現には膨大な生命情報を必要とする。しかしながら、ヒトにおいても総数僅か2-3万個程度の限られた遺伝子数に対して、どのように哺乳類の生命高次現象がプログラムされているのかは未だに大きな謎である。選択的スプライシングは単一の遺伝子から複数の遺伝子産物を生み出し生命情報を多様化させる重要な仕組みである。脳は選択的スプライシングの最も盛んな臓器であり、高等動物における複雑な組織構造と機能発現に強く寄与していることが予想される。採択者は、中枢神経系において選択的スプライシングを制御するメカニズムに注目し、これまでに興味深いファクターとして、RNA結合タンパク質SAM68/Sam-like molecule (SLM)を同定してきた。現在SAM68/SLMによる選択的スプライシングを中心とし、時空間的選択的スプライシングプログラムの制御機構と、それのコードする生命情報の多様性と神経系での機能的役割を理解することを目指している。 昨年度は、当研究室でエキソンレベルでのマイクロアレイ解析によってSAM68/SLMの標的RNAの網羅的スクリーニングを行ったところ、エキソンレベルで有意な変動を示す遺伝子が300個以上同定され、その中からシナプス形成や特異的回路形成に重要とされる分子を抽出して解析を行った。RT-qPCRによりノックアウトマウスと野生型とのスプライシング比率を比較したところ、特に精神遅滞、自閉症、統合失調症、知的障害などの神経・精神疾患との関連性が示されている神経接着因子などで劇的なアイソフォーム変化が起きていることがわかった。今後は、これらの興味深いアイソフォーム変化に注目し神経系での生理的意義を解明することにより、生命情報の多様性の意義の一端を解き明かしていきたいと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今回の網羅的トランスクリプトーム解析によって、興味深い標的RNA分子が同定できたこと、またノックアウトマウスにおいて、これらの明確なスプライシング変化を検出でき、初期段階で予想以上に有益な情報を得ることができた。神経系での機能解析は現在すでに培養神経細胞を用いたin vitroレベルで始めているが、これに加え新たにin vivo(in utero)電気穿孔法など、in vivoレベルでのアッセイをセットアップ中であり、飛躍的な進展が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度のトランスクリプトーム解析の結果をふまえ、2016年以降は以下に焦点を絞り研究を進めて行く。 1. スプライシング変化によって出現するatypicalアイソフォームの機能を明らかにする。レンチウイルス、in vivoまたはin utero電気穿孔法により分散神経培養細胞やマウス脳に遺伝子を導入し、アイソフォームの異所的発現およびノックダウンによる表現型を生化学的、細胞生物学的、細胞生物学的手法により調べる。 2. 近年SAM68/SLMノックアウトマウスがさまざまな神経機能に障害を持っていることが明らかになりつつある (Iijima et al., 2011; Klein et al., 2013 & 2015; Pagliarini et al., 2015)。さらに、最近の報告で本研究の対象分子であるSLM1をコードするKhdrbs2遺伝子の変異が自閉症の候補因子としても挙げられており(Salyakina et al., 2012)、精神疾患と関連性のある分子をコードする複数のRNA分子が標的となっていることから、ノックアウトマウスの異常と同定してきた標的分子のスプライシング変化との関係を明らかにし、ヒト神経・精神疾患との関連性について電気生理学的、動物行動学的に検討する。
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Research Products
(4 results)