2016 Fiscal Year Annual Research Report
ゼブラフィッシュ比較動物学とビーズ技術を用いたサリドマイド催奇性メカニズムの解明
Project/Area Number |
15H04288
|
Research Institution | Tokyo Medical University |
Principal Investigator |
安藤 秀樹 東京医科大学, 医学部, 准教授 (10251844)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | サリドマイド / 催奇性 / ゼブラフィッシュ / トランスジェニック / セレブロン |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実績の概要 (目標)本年度の研究計画では、サリドマイド催奇性に関与すると思われるセレブロン(CRBN)内のサリドマイド結合ポケットに配置される4つのアミノ酸のうちどれが催奇性誘導の核となるアミノ酸かを特定することが目標である。 (実績の概要)① 試験管内合成したマウス型CRBNとゼブラフィッシュ型CRBNのハイブリッドRNAの強制発現では、ゼブラフィッシュ胚に催奇性をもたらすのはCRBNのC末端領域にあるサリドマイド結合ポケットに配置される4アミノ酸のうち特定の1アミノ酸ないし2アミノ酸であることが示唆された。 ② 今年度の計画では最優先事項であった、ヒト型CRBNを発現するトランスジェニックゼブラフィッシュの作成に着手し、現在F0世代の個体群を飼育中である。 (実績の詳細)①CRBN内のサリドマイド結合ポケットに存在するマウスとヒト・ゼブラフィッシュで配置されるアミノ酸が異なる4箇所は初年度に特定済みである。2年度ではこれらの内どのアミノ酸またはアミノ酸の組み合わせが催奇性の有無を決定するかを両種のハイブリッドCRBNを強制発現させてサリドマイド応答を評価する系で解析した。その結果ひとつの極めて有力な候補のアミノ酸ともうひとつの催奇性に関与する可能性があるアミノ酸を特定した。 ②一過性強制発現で示唆された結果を明確に検証するため、この2アミノ酸をゼブラフィッシュCRBNをベースにヒト型とマウス型に置換したCRBNを全身で恒常的に発現するトランスジェニック個体を確立中である。以上の実験系によりゼブラフィッシュ胚をベースにして上肢(胸ヒレ)形成へのサリドマイド催奇性の分子機構を明らかにし、副作用のない抗がん剤の開発への展望が開ける。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究目的であるサリドマイド催奇性の分子機構の解明については以下の進捗状況からおおむね順調に進展している。 ①ゼブラフィッシュ、ヒト(サリドマイドにより上肢形成が阻害される)セレブロン (CRBN)とマウス(サリドマイドに不感受性)CRBNの分子構造の比較により、CRBNのサリドマイド結合ポケットに配位する4つのアミノ酸が両種の薬剤感受性の違いに関わっていることを明らかにした。 ②ゼブラフィッシュCRBNを土台にこれらのアミノ酸をヒト型、マウス型に置換したハイブリッドCRBNを作成し、ゼブラフィッシュ胚に強制発現する実験を行った結果、多くとも二つのアミノ酸に絞り込むことができた。 ③しかしながら発生初期胚へのmRNA注入による一過的な強制発現では胸ヒレが伸びる受精2~3日後では効果が弱くなるので、さらに明瞭な結果を得るべく上記のハイブリッドCRBNをトランスポゾンTol2をベクターとしたゲノム挿入にてトランスジェニック個体を作成中である。 (研究途上において想定される予想外の展開について) 上記③において当初の予想どうりに明瞭な結果が得られなかった場合は i)ゲノムに挿入したプロモーター活性が強すぎるまたは弱すぎる ii)発現組織が最適でない。すなわち胸ヒレで発現が弱い等 が原因であると考えられる。これらの対策として現時点から胸ヒレで強い発現を示す既知のプロモーターをつないだハイブリッドCRBNのトランスジェニック個体の作成も準備中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策 ①ゼブラフィッシュにてサリドマイド催奇性発動の原因となるアミノ酸を特定できた場合 i)分子内電荷的相互作用の検定を行う:特定できたアミノ酸の電荷的特性に注目し、同じ電荷または逆の電荷をもつ他のアミノ酸に置換していく。三次元モデルを構築し当該アミノ酸とセレブロン(CRBN)内で会合するアミノ酸との電荷的相互作用がサリドマイド結合ポケット構造に及ぼす影響を精査する。 ii)催奇性の発動はCRBNへサリドマイドが結合した様式に依存すると仮定している。特定したアミノ酸の極性等の性状と高次構造への影響、結合ポケットのサリドマイドのくわえ込み方などを詳しく解析し、サリドマイド結合後の基質の選択性への影響を調べる。 iii)催奇性回避型サリドマイド誘導体の開発:サリドマイドは血球系のがんなどに優れた薬効を発揮する。今後の研究の主軸としてはCRBNから薬剤側に視点を移し、ヒトCRBNに結合しながら主作用(抗がん活性・抗炎症活性)は発揮しつつ催奇性は発揮しない新薬の開発をあげる。具体的には特定したアミノ酸と薬剤との相互作用をマウスCRBNに擬態し催奇性を回避する。
|