2018 Fiscal Year Annual Research Report
ゼブラフィッシュ比較動物学とビーズ技術を用いたサリドマイド催奇性メカニズムの解明
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15H04288
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Research Institution | Tokyo Medical University |
Principal Investigator |
安藤 秀樹 東京医科大学, 医学部, 准教授 (10251844)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ゼブラフィッシュ / サリドマイド / 催奇性 |
Outline of Annual Research Achievements |
悲惨な薬害の歴史を持つサリドマイドは反面抗がん剤としての正の顔も持つ。本薬剤はヒトやゼブラフィッシュの肢形成に催奇性をもたらす一方でマウスには影響を与えない。本研究ではこれをヒントとし、薬害回避の抗がん創薬を最終目標として、サリドマイド催奇性のターゲットであるヒトCereblon (CRBN)・ゼブラフィッシュCRBNとマウスCRBNとの機能の違いを生み出す分子機構の限定を目的とする。 具体的にはサリドマイドが結合するCRBNの結合ポケットを形成する保存されたC末端領域の中のわずかなアミノ酸の違いがヒト・ゼブラフィッシュCRBNとマウスCRBNのサリドマイド感受性の差をもたらしていると仮定する。これらのアミノ酸をヒト・ゼブラフィッシュ型からマウス型に置き換えていくことでサリドマイドに感受性を持たなくなるアミノ酸を限定し、催奇性をもたらす原因となるアミノ酸とそれによるサリドマイド結合ポケットの立体構造への影響を明らかにする。 平成30年度の研究成果:本研究課題ではこれまでにヒト・ゼブラフィッシュCRBNとマウスCRBNのサリドマイド感受性の差をもたらしているアミノ酸を、CRBNのC末端側の各種動物でよく保存されているサリドマイド結合ポケット内に存在する1アミノ酸に限定した。 さらに、①研究代表者が開発した生体内リポフェクション法 (Ando and Okamoto, Mar. Biotechnol., 2006)を用いてゼブラフィッシュ同一胚の胸ヒレ進展予定領域の左側にゼブラフィッシュ型CRBNを、右側にマウス型1アミノ酸置換CRBNを導入し、薬剤存在下で右側のみ正常に胸ヒレが進展することを確認した。並行して②CRISPR-Cas9によるゲノム編集でゼブラフィッシュCRBNをマウス型アミノ酸に置換したCRBNと交換した系統を確立し、サリドマイド抵抗型ゼブラフィッシュを作成中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では当初の目標であるヒト・ゼブラフィッシュCRBNとマウスCRBNのサリドマイド感受性の差をもたらしているアミノ酸を、CRBNのC末端側の各種動物でよく保存されているサリドマイド結合ポケット内に存在する1アミノ酸にまで限定した。ここまでは研究計画の予定通りの進展である。 しかしこのアミノ酸が催奇性の責任因子であることを確実に実証するための実験が必要であり、まず研究代表者が開発した生体内リポフェクション法 (Ando and Okamoto, Mar. Biotechnol., 2006)を用いてゼブラフィッシュ同一胚の胸ヒレ進展予定領域の左側にゼブラフィッシュ型CRBNを、右側にマウス型1アミノ酸置換CRBNを導入した。その結果サリドマイド存在下で右側のみ正常に胸ヒレが進展することを確認した。すなわちゼブラフィッシュ型CRBNを発現した胸ヒレのみサリドマイドの作用に反応して発達障害を見せた。またマウス型とヒト型CRBNでの検証についてはCRBNのマウス化・ヒト化ゼブラフィッシュの作成を行っている。CRISPR-Cas9によるゲノム編集でゼブラフィッシュに内在するCRBNをマウス型アミノ酸置換型・ヒト型アミノ酸置換型CRBNと交換したトランスジェニック系統を確立し、目下次の世代の誕生が近い状況である。これが完成すれば、ゼブラフィッシュ型・マウス型・ヒト型CRBNの片側胸ヒレでの強制発現によって3種間でのさらに効率的な薬効の比較が可能となる。
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Strategy for Future Research Activity |
生体内リポフェクション法 による実験の結果、サリドマイド存在下でマウス型CRBNを発現する胸ヒレのみ正常に進展したことは、本研究の目標である催奇性の責任を担う1アミノ酸を限定するという研究の最終段階に入ったことを意味する。この実験ではゼブラフィッシュ型CRBNによる催奇性感受性効果を見たものであり、充分な再現性を確認している。さらにヒト型についても同様の実験でサリドマイド催奇性が起こることを確認しており、目下再現性の確認を進めている。今後の目的である副作用を回避したサリドマイド誘導体の抗がん剤の開発にむけて、ヒト型CRBNを基盤とした一層踏み込んだ解析を目指している。すなわちCRBNのヒト化ゼブラフィッシュの作成を行っている。CRISPR-Cas9によるゲノム編集でゼブラフィッシュ内在性のCRBNをヒト型CRBNと交換した系統を確立し、ヒト型をベースとしてこれにマウス型やゼブラフィッシュ型CRBNを片側の胸ヒレに強制発現することにより、簡便かつ迅速な薬効評価系が誕生することが期待できる。このような今後の推進方策によって生み出された成果は、1アミノ酸レベルでの薬剤と標的タンパク質との相互作用のリモデリング(副作用の回避・薬効の強化)や結合能の人工的なコントロール(薬効の強化)といった、次世代の創薬基盤となる方法論の提供としても貢献できるものであると考えている。
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