2015 Fiscal Year Annual Research Report
脂質性情報伝達物質を産生する膜タンパク質の脂溶性分子認識機構の解明
Project/Area Number |
15H04343
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
吾郷 日出夫 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学総合研究センター, 専任研究員 (70360477)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | X線結晶構造解析 / 膜タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
ロイコトリエンC4合成酵素(LTC4S)とマイクロゾーマルプロスタグランジンE2合成酵素1(mPGES1)は、基質もしくは補因子として働くグルタチオンと脂溶性基質の反応を触媒する膜タンパク質である。これまでにグルタチオンの認識と活性化機構は明らかになったが、脂溶性基質の結合様式は不明である。酵素反応の全容の理解と、病気の治療薬探索への応用も期待される観点から、脂溶性分子との複合体構造解析を行い、部位特異的結合に寄与する極性官能基が少ない脂溶性分子を認識する仕組みを明らかにする。この目的のためには、いわゆるweak hydrogen bondを含む相互作用を評価できる分解能での構造解析と、基質認識部位での脂溶性分子の占有率を高めることが肝要である。LTC4Sはこれまでに1.6オングストローム分解能の構造解析が可能な結晶の結晶化条件を確立している。mPGES1は文献上1.2オングストローム分解能の構造解析が可能な結晶化条件が知られていることから、この結晶化条件を再現する試みを行った。脂溶性分子の基質認識部位での高占有率化では、脂溶性分子の可溶化に寄与する両親媒性分子を結晶化の基材とする脂質メソ相での結晶化が有効であると考えられるが、小型の結晶が多数析出する傾向が知られておりmPGES1でも結晶の大きさは10マイクロメートル程度であることから、効率的なX線回折実験のため、脂質メソ相内にある多数の結晶を、重なり少なく測定用のホルダーに展開する方法の準備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
mPGES1の高分解能構造解析に向けた精製結晶化条件の最適化を行った。具体的には、界面活性剤の交換方法を含む精製法の検討を行った。1.2オングストローム分解能の解析で用いられた結晶は界面活性剤オクチルグルコシド(OG)を用いていた。一方、本研究のこれまでの精製では、界面活性剤ドデシルマルトシド(DDM)を用いていたため、精製途中で界面活性剤をOGに置換することとした。当初、1 %(w/v)となるようOGを加えた初段のカラムの溶出液を金属キレートカラムと一晩4℃で共存させた後、OGだけを含む緩衝液で洗浄し、OGへの置換を試みたが、精製途中で沈殿を生じる等の不具合が見られた。そこで、界面活性剤の置換方法を含む精製法を検討し、臨界ミセル濃度がDDMより高いデシルマルトシド(DM)とOGの混合液で可溶化し、さらに初段カラム内で段階的にDMの濃度を下げる方法を採用することで精製試料を得た。この試料のゲルろ過カラムでの保持時間は、DDMを用いる場合に比べ有意に長くなり、より短いアルキル鎖のOGに置換されたことと矛盾しなかった。本試料は、界面活性剤存在下の結晶化で100マイクロメートル程度の大きさの結晶を与えた。 脂質メソ相を用いた結晶化では、結晶化溶液との組み合わせで様々な粘度となる脂質メソ相の中に、界面活性剤存在下の結晶化に比べ、より小さく、かつ多数の結晶が成長する傾向があり、複数の結晶に同時にX線が当たることによる、結晶方位決定での不都合で測定効率が低下する。そこで、ガラスノズルから結晶を含む脂質メソ相を電位差を用い吐出する装置を整備した。結晶を含む脂質メソ相を充填したシリンジに装着でき、かつ、既存のガラスノズルに比べて脂質メソ相の必要量を減らしたガラスノズルを製作した。また、脂質メソ相を塗布する結晶ホルダーを、X線散乱の小さな光硬化カプトンフィルムで製作した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は脂溶性分子を含め、膜タンパク質の構造解析を行う。 (1)タンパク質の発現精製。 平成27年度に準じてタンパク質の発現精製を行う。LTC4Sは、すでに発表した方法を用いる。mPGES1は、界面活性剤存在下で大型結晶の作成に成功した平成27年度の研究で改良した方法を用いる。 (2)脂溶性分子との複合体結晶化。 脂質メソ相での結晶化では、脂質メソ相へのコレステロールの導入法に準じて結晶化を行う。具体的には、モノオレイン等のメソ相の基材と脂溶性分子を均一に混合した有機溶媒を一旦乾燥させ、その後、タンパク質を含む水溶液を混合して行う。また、高濃度の界面活性剤で懸濁した脂溶性分子を使い界面活性剤存在下でも複合体結晶の作成を行う。また、固体の脂溶性分子との平衡化による浸漬法も併用する。 (3)X線回折実験と構造解析。 X線回折実験では、作成した結晶の大きさに応じて使用するビームラインと測定法を選択し、より高分解能での構造解析を目指す。30μm以下の大きさの結晶の場合、マイクロビームビームラインで複数結晶を使ったシリアル測定が可能な高輝度ビームラインを使用する。30μmから100μm程度の大きさの場合、マイクロビームビームラインでヘリカルスキャン等の方法を使い、同型性の面での利点を期待し、同一結晶からの一組のデータを収集する。より大きな結晶の場合、ビームの安定性と放射線損傷の管理の容易さの観点からベンディングマグネットを光源とするビームラインでのデータ収集を行う。
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