2016 Fiscal Year Annual Research Report
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15H04411
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
石田 健一郎 筑波大学, 生命環境系, 教授 (30282198)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 進化 / 二次共生 / Minorisa / 原生生物 / 系統分類 / 藻類 / クロララクニオン藻 / ケルコゾア |
Outline of Annual Research Achievements |
1.昨年度得たラブドアメーバのRNAseqデータをもとに調査した結果、緑藻類などから水平伝播(EGT)した遺伝子は検出されなかった。また、微細構造観察でも色素体の痕跡と思われる構造は観察されなかったことから、ラブドアメーバは色素体獲得が起こる前にクロララクニオン藻から分岐した生物であると考えられる。 2.昨年度確立したSRT609株のRNAseq解析を行った。クロララクニオン藻のB. natansにおいて核から色素体に輸送されると予測された1061のタンパク質のうち、237タンパク質がSRT609のRNAseqデータから見つかった。これらのタンパク質の由来を調べたところ、クロララクニオン藻色素体の起源である緑藻に由来するタンパク質は見つからず、シグナルペプチドも検出できなかった。SRT609もまた色素体の共生が起こる前にクロララクニオン藻から分岐した生物であると考えられる。 3.昨年度の環境DNA調査結果を指標としてクロララクニオン藻に近縁なケルコゾア生物の探索を実施し、東京湾の海水サンプルから新しい培養株Y-KSI-01株の確立に成功した。この生物の18S rRNA遺伝子は、既知のMinorisa minutaの配列と同じクレードに属したものの、配列は8%異なっていた。 4.SRT609株とY-KSI-01株について形態・微細構造観察を行った。SRT609株は、18S rRNA遺伝子の配列に加えて細胞サイズと鞭毛の長さがM. minutaの原記載と一致しており、SRT609株はM. minutaであると同定された。新たに確立されたY-KSI-01株については、M. minutaの原記載及びSRT609に比べて大きな細胞と長い鞭毛をもつことが明らかとなった。18S rRNA遺伝子配列の差異も考慮すると、Y-KSI-01株はMinorisa属の新種として扱うのが妥当である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画のうち、ラブドアメーバのRNAseq解析、ミノリサのSRT609株の形態・微細構造観察とRNAseq解析、クロララクニオン藻近縁ケルコゾア生物の新奇培養株確立、新奇培養株の形態・微細構造観察について、計画通り進めることができた。その結果、ラブドアメーバもミノリサも色素体の共生が起こる前にクロララクニオン藻から分岐した生物であることを明らかにすることができた。 研究計画のうち、代謝系遺伝子の進化については、注目すべき代謝系遺伝子の選定に時間がかかり、来年度まで継続される。一方で、Y-KSI-01株が、既知のミノリサとは異なる生物であり、新種であることが示唆されたことにより、研究計画にはなかったミノリサ属の種多様性を明らかにするという新展開も生まれている。 総じて、研究はおおむね計画通りに着実に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.これまでにクロララクニオンに近縁な原生生物であるラブドアメーバ及びミノリサの培養株の確立に成功した。しかし、両者は大きく異なる形態をもつ。次年度は特にラブドアメーバとミノリサの中間段階にあたる原生生物を探索する。これによりクロララクニオン藻の成立過程における宿主の形態進化をより詳細にたどることを可能にする。 2.これまでのトランスクリプトーム解析は、ラブドアメーバ及びミノリサが色素体の共生が起こる前にクロララクニオン藻から分岐した生物であることを示唆した。次年度は色素体の獲得によって大きく変化したと考えられる代謝系について、タンパク質の詳細な系統解析を実施するとともに、ラブドアメーバ、ミノリサ、クロララクニオン藻間での比較トランスクリプトームを行うことで、色素体獲得に伴うタンパク質の進化を明らかにする。 3.捕食性の原生生物において、鞭毛基部から伸びる鞭毛根は一般的に捕食装置を形成することが知られているが、クロララクニオン藻では他の捕食性ケルコゾア生物に比べて退化的である。これまでの研究で、ミノリサはクロララクニオン藻の遊走細胞と同様に、完全な基底小体と短い基底小体からなる鞭毛基部をもつことが明らかになったが、次年度は、ミノリサの鞭毛根の立体構造についても明らかにし、クロララクニオン藻及び他のケルコゾア生物と比較することで、栄養様式の変化に伴う鞭毛根の進化を明らかにする。
4.今年度、Y-KSI-01株はMinorisa属の新種として扱うのが妥当であることが示唆されたため、この培養株について、詳細な分類学的調査を実施し、その分類学的位置を確定して新種としての記載を行う。
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Remarks |
筑波大学生命環境科学研究科 石田研究室 http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~ken/ishida-index.html
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Research Products
(13 results)