2016 Fiscal Year Annual Research Report
Interplay between co-evolution and population dynamics in the predator - prey relationship in the island environments
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15H04426
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
長谷川 雅美 東邦大学, 理学部, 教授 (40250162)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 捕食者 / 被食者 / 進化動態 / 島嶼環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
従来、進化は長い時間で起こる現象だと認識されてきた。しかし、短い時間で起こる迅速な進化が普遍的に起きていることが明らかとなり、個体群や群集、生態系の動態も迅速な進化の影響下にあることが疑いようもなくなった。その結果、生態が進化を駆動し、進化が生態的変化を駆動するフィードバック機構の解明が進化生態学の重要課題となってきた。 伊豆諸島でオカダトカゲとシマヘビの個体群研究が始められた1070年代後半、ガラパゴス諸島ではフィンチ類を対象に、自然選択を直に測る研究が進められていた。グラント夫妻の一連の研究に学び、オカダトカゲとシマヘビの個体群動態と表現形質を記録する長期研究を開始した。長期データのおかげでシマヘビとオカダトカゲが、ロトカ・ボルテラ式の個体数振動を示すことを見出し、振動の周期や振幅が島によって異なることにも気が付いた。 シマヘビの色彩パタンは多型的であるが、神津島では全てストライプ型に固定されていた。一方、新島では、ストライプ型と薄いストライプ型、全身茶色の非ストライプ型の頻度が年変動しつつ維持されていた。新島では、トカゲとヘビの個体数振動の周期が神津島より長く、振動の振幅は小さかった。その後、トカゲがヘビの色彩パタンを学習し捕食を回避する仕組みが、ヘビの色彩型頻度を年変化させ、トカゲとヘビの個体群動態にも影響を与えていることがみえてきた。トカゲの変化がシマヘビの選択圧となり、ヘビの変化がトカゲの選択圧となることを、本申請での研究により明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オカダトカゲがシマヘビの色彩を学習し回避することについては、オカダトカゲが捕食者の形質を認知し、捕食を回避する行動と学習による可塑性が、捕食者の色彩が多型を呈する個体群ほど発達しているかどうかを、ヘビモデルを用いた各島での行動実験によって確かめた。その結果以下のごとく特筆すべき成果を得ることができた。 第1の行動実験は、伊豆諸島の新島, 神津島, 八丈小島(シマヘビの色彩型は, 多型, 単型, 非生息) で行った。異なる色彩パタン(Stripe,Pale-Stripe, Non-Stripe) を塗布したシマヘビモデル、黒色(Melanistic) モデルと、黒・黄・赤のトリコロールモデルをオカダトカゲに提示し、モデルに慣れて近寄るまでの所要時間を各色彩型に対する警戒度として定量し、視覚的捕食者認知能力が3 島で適応的に分化しているかを検証した。新島のシマヘビ個体群に見られる色彩多型維持に焦点を当てた実験では、実験地点から半径200 mの範囲内で捕獲・目撃されたシマヘビの色彩型頻度を集計した。 定量化した警戒度とシマヘビデータを解析し、1)色彩型頻度が高くなる程オカダトカゲの警戒度合いは、同所的に生息する捕食者に応じて適応分化していることが示唆された。そして、2)同所的に生息しない捕食者の色彩型でも派手であれば強く警戒すると同時にヘビ側に対する強い淘汰圧となる(普遍性を有する) こと、3)新島のシマヘビに見られる色彩多型は、オカダトカゲの視覚的捕食者認知が, 多数派の色彩型を有するシマヘビの捕食成功率を下げ、捕食者の色彩多型維持における負の頻度依存選択の役割を果たす可能性を初めて導いた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度も野外調査によるシマヘビとオカダトカゲの個体群動態解析が中心となるが、以下のような計画で今後の研究を推進する。 野外調査によるシマヘビとオカダトカゲの個体群動態解析、オカダトカゲによるシマヘビの警戒行動の定量評価、色彩パタンの進化に関わる遺伝子同定のための基礎的な発生生物学的解析を行う。研究チーム内での進捗状況を把握し、相互理解を進め、最終年度の取りまとめを行うため、平成29年の末に研究集会を行い、論文作成の詳細計画を作成する。 野外調査:伊豆諸島の5島(伊豆大島、新島、神津島、只苗島、八丈小島)と比較のため本州沿岸の陸橋島(四国、高知県の沖ノ島とその対岸の本土)において、野外での標識・再捕獲調査、行動実験を行う。実験:色素細胞の分化に注目したシマヘビの胚発生過程における色彩パタンの発達過程解明を行う。 野外データの解析:標識・再捕獲データから表現型質の異なる個体ごとの生存率を推定し、そこから自然選択の有無、方向性、強度を検出する。なお、この部分の解析においては、理論生態学の山道真人博士(京都大学)との議論により、解析の頑健性を担保する。ゲノム解析に基づく適応遺伝子の検索と同定:昨年度に引き続き、シマヘビドラフト配列の決定と適応進化の責任遺伝子探索を進める。これらの成果を検討するため、2017年12月に、研究取りまとめのセミナーを開催する。
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Research Products
(5 results)