植物はいかにUV-Aを感知しどのように応答するか

2015 Fiscal Year Annual Research Report

• Project/Area Number: 15H04448
• Research Institution: The University of Tokyo
• Principal Investigator: 河鰭 実之 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 教授 (10234113)
• Project Period (FY): 2015-04-01 – 2019-03-31
• Keywords: UV-A / 活性酸素 / アントシアニン / 酸化ストレス

Outline of Annual Research Achievements

太陽から放射される紫外線のうち，オゾン層にほとんど吸収されずに地表に到達するUV-Aは直接細胞に損傷を与えることはないが，アントシアニン合成をはじめとして様々な形態形成反応を誘導する．本研究は，UV-Aが植物にどのように感知され，どのように様々な反応を引き起こしているのかを，UV-Aが物理的に引き起こすと推定される酸化ストレスに着目して明らかにすることを目的とした．カブ｀津田蕪｀の芽生えUV-Aを照射する実験を行い，それにより誘導される活性酸素種（ROS）を計測した．その結果以下のことが明らかとなった．
（１）下胚軸において，1時間のUV-A照射によってアントシアニンが増加し，蓄積量はUV-Aの照射時間と照射強度に依存して増加した．
（２）‘津田カブ’下胚軸における総ROS量は、UV-A照射1時間後から2時間後にかけて高まり、6時間後、12時間後には照射前の水準まで低下した．
（３）RNA-seq解析の結果，UV-A特異的に発現量が高まった遺伝子群のなかには，アントシアニン合成系遺伝子の他にLOX2遺伝子とペプチドメチオニンスルホキシド還元酵素（PMSR）遺伝子のホモログが多数含まれた．LOX2とPMSRについて定量PCRを行ったところ，PMSRがUV-A照射1時間後から高まりその後低下するという変化を示した．この変化は，ROS量の変化と類似していた．
以上のように，アントシアニン合成は1時間のUV-A照射で誘導され，この時間がROS上昇を引き起こされる時間と一致した．さらにアントシアニンが蓄積しはじめるとともにPMSRの発現が誘導されたのちには、ROS量が低下したことから，UV-A照射によってROSが発生し，それに対する防御反応がおきたためその後ROSが低下したことが推察された。

Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

今年度の計画では，UV-A照射と活性酸素種発生との関連を調べるとともに，それに伴うアントシアニン生成，各種応答性遺伝子の発現の変化について明らかにすることを目標とした．本年度の結果では，UV-Aの照射後のROSの消長，アントシアニン合成の誘導，ペプチドメチオニンスルホキシド還元酵素遺伝子の誘導との間に，相対的な関連性がみとめられ，活性酸素種の発生がUV-A応答に関連していることが強く示唆された．この結果をもとに，次年度の研究では，さらに状況証拠，直接的な証拠を得ることを目指す．また，UV-A依存的アントシアニン合成を示さない突然変異体の解析については，一部の変異体についてはゲノムの解読まで行っており，現在そのデータを解析しているところである．

Strategy for Future Research Activity

初年度の実験では，活性酸素種の総量がUV-A照射１-2時間増加し，その後低下するという消長を示した．この変化は，UV-Aによる活性酸素種の生成誘導とそれに続いて起こる抗酸化物質の生成による活性酸素種の除去の過程と推測される．
この結果は，本研究を行うにあたって立てた仮説を支持するものであり，研究計画の大幅は修正は必要なく，今後も予定通り研究を進める．
次年度は，UV-A照射によるROSの種類の特定を行う．これまでは，総ROS量の変化について調査したが，どのROSの変化が大きいのかは明らかにできていない．ROSにはスーパーオキシドラジカル，過酸化水素，ヒドロキシルラジカル，などがあり，それらはタンパク質や細胞膜と反応して傷害を与える．どの活性酸素種の発生が多いのかを，各活性酸素種特異的な検出試薬を用いて定量する．また，活性酸素種と関連物質の消長の比較により関連性を明らかにするだけでなく，UV-Aを照射した組織における活性酸素種の分布からも，関連性を明らかにしていく．活性酸素の分布領域の把握と応答性遺伝子や抗酸化物質の分布とをしらべ，それらの関連性を調べる．さらに、直接的な証拠を得るため，活性酸素種生成を阻害する物質，生成する物質を組み合わせた処理により，UV-A照射と，活性酸素種の発生，アントシアニン生成との関連性を明らかにする．