2015 Fiscal Year Annual Research Report
森林小流域における放射性セシウムの移動・蓄積・流出を予測する林床有機物動態の解析
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15H04511
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
戸田 浩人 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00237091)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
崔 東壽 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (20451982)
五味 高志 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30378921)
吉田 智弘 東京農工大学, 農学部, 助教 (60521052)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 林学 / 放射線 / 土壌圏現象 / 物質循環 |
Outline of Annual Research Achievements |
福島第一原発事故で福島県から北関東の森林に沈着した多量の放射性セシウム(Cs)の動態予測を行うため、福島県二本松市と東京農工大学FM大谷山・草木(群馬県みどり市)、FM唐沢山(栃木県佐野市)の森林小流域等での観測を実施するとともに、有機物の分解と浸透にともなう放射性Cs動態を存在形態も含めて考察し、平成27年度には以下の事象を把握した。 1.落葉など林床有機物と土粒子の物理的移動で渓畔沿いに放射性Csが移動蓄積していること、渓床での放射性Csは針葉樹林で蓄積し広葉樹林では流下しやすいこと、などを明らかにした。また、林床・渓床ともに有機物の粒子サイズ低下によって放射性Cs濃度上昇し、それは雪物の分解程度を示すC/Nの低下と指数関数的関係があり、C/Nが30前後で急激に放射性Cs濃度が上昇した。このことは微生物による窒素不動化過程から(純)無機化に転じる有機物の変化が放射性Csの濃縮との関連性を示唆している。 2.林床の有機物層から分解や溶脱によって表層土壌へ浸透移動する放射性Csは、森林土壌で水田土壌より著しいことを室内カラム実験により確認した。このことは有機物が浸透しやすい森林土壌系では、より深い層にも放射性Csが浸透移動し蓄積する可能性を示している。 3.二本松のナラ林萌芽更新調査地で萌芽枝の放射性Cs濃度は経年的に減少し、ホダ木の成長による希釈効果がみられたが、更新3年目ではホダ木の暫定基準値を上回っていた。 4.二本松および群馬県みどり市における落葉の放射性Cs濃度は、初期沈着濃度に依存していた。高木層では外生菌根菌が共生するナラ類の濃度が高く、みどり市で継続採取した長期生態系モニタリング(LTER)固定調査地における原発事故前(2010年)の落葉でもナラ類では放射性Csが検出されるなど樹種特性がみられ、グローバルフォールアウトの放射性Csを循環させていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、森林生態系における放射性Csの移動・蓄積・流出に影響する要因を解析することで、予測モデルの構築とその知見を活かした流出抑制対策を目標としている。H27年度は、1.有機物分解にともなう土壌系での放射性Csの存在形態と蓄積、2.層土壌における植生の放射性Cs吸収、3.樹種別の落葉による放射性Csの林床供給と循環、に関する情報収集を行った。 森林生態系において林床の有機物層の分解に伴う物理的サイズの低下およびC/Nといった質的変化によって、放射性Cs濃度が上昇していることを明らかにした。室内実験で森林土壌は水田土壌よりも有機物の分解浸透にともなう放射性Csの移動性が高いことも把握し、有機物の分解と浸透移動を捉える必要性を確認した。森林小流域単位でみると移動性の高い落葉広葉樹の落葉は、傾斜にともない安定した場所へ移動するため渓流沿いなどに放射性Csも移動蓄積していた。スギ落葉は急傾斜地以外では移動性が低く、渓流へは直達した落葉が多いと推察された。また、渓床有機物も落葉広葉樹林で移動・流下しやすく、スギ林のほうが渓床に堆積有機物が多かった。 二本松市のコナラ・クヌギ萌芽試験地ではホダ木に存在する放射性Cs濃度が、経年で物理的崩壊以上に低下する傾向がみられ、希釈効果が働いていると考えられたが暫定基準値を上回っていた。落葉広葉樹落葉の放射性Cs濃度は、当初の沈着量の違いの大きさから経年で樹種による違いもみられるようになり、外生菌根菌と共生するナラ類で原発事故以前からグローバルフォールアウトの放射性Csを有していることが示唆された。以上のことから、森林生態系の循環系として捉え、予測モデルの構築にはCsの根系吸収と落葉供給割合を解明する必要がある。そこで、H27年度中にビニール・ハウス内でコンテナやポットを用い、コナラ苗木による放射性Cs吸収実験を実施する準備を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
H27年度の成果を踏まえ、森林生態系における放射性Csの移動・蓄積・流出に影響する要因を解析し、流出抑制法の検討と対策に活かせる予測モデルの構築を目指す。 1.有機物分解にともなう土壌系での放射性Csの存在形態と蓄積:初期沈着の異なる二本松のスギ、マツ、ナラ林土壌において、同様の森林タイプであっても場所による放射性Cs浸透の差がみられるため、放射性Cs浸透状態をC/Nや土壌動物活動、微生物相などの指標とともに解析する。その存在形態を逐次抽出法や重液処理法による腐植と土粒子の分離によって明らかにすべく、実験系を確立する。 2.表層土壌における植生の放射性Cs吸収:二本松のコナラ・クヌギ萌芽更新調査地において、萌芽のモニタリングを継続しつつ、萌芽枝に含まれる放射性Csの由来が原発事故時の根株の沈着と土壌からの経根吸収とどちらが主か把握するための実験系を、根と萌芽のCs:K比やポット試験等で構築する。また、H27年度にビニール・ハウス設置、土壌採取、種子採取および苗木の調整等の準備を進めてきた、コナラ苗木の菌根菌共生とそのネットワークによる放射性Cs吸収特性の調査を開始する。 3.樹種別の落葉による放射性Csの林床供給と循環:新たな落葉による放射性Csの林床への供給は、高木層では外生菌根菌が共生するナラ類の濃度が高い等樹種による差異がみえてきた。原発事故5年を経て、放射性Cs初期沈着の偏在から安定した循環系になりつつあることから、今後の動態予測には落葉による循環を主要な樹種ごとに捉えるとともに、ホダ木や菌床栽培需要として広葉樹幹枝に蓄積している放射性Cs濃度を立地環境とともに把握する。また、林床に繁茂するササ類の吸収・還元も放射性Csの循環に影響を及ぼす。以上より本年度は、初期沈着の異なる立地において、主要な樹種別落葉とササ類による放射性Csの林床供給の特徴を明らかにする。
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Research Products
(8 results)