2016 Fiscal Year Annual Research Report
植生遷移に伴う落葉広葉樹林生態系機能の環境応答特性の変遷とその変動機構の解明
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15H04512
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
斎藤 琢 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 助教 (50420352)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
永井 信 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球表層物質循環研究分野, 主任研究員 (70452167)
村岡 裕由 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 教授 (20397318)
吉竹 晋平 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 助手 (50643649)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 植生遷移 / 生態系機能 / 蒸散量 / 葉群フェノロジー / 気候変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主に重点研究サイトである50-60年生の落葉広葉樹林(TKYサイト)において植生遷移初期から植生遷移後期の林分を構成するシラカンバ・ダケカンバ、ホオノキ・ミズナラ・ブナ,林床低木種であるノリウツギ・オオカメノキおよびクマイザサなど11種43個体に計69個の樹液流センサー(グラニエ法または幹熱収支法)を設置するとともに、樹冠カメラを追加し、葉群フェノロジーと樹液流の季節変化データを取得した。一部のセンサーは、動物等によりケーブルが切断され欠測となったものの、データの取得状況は概ね良好であった。また、主要林冠木および林床低木の個葉のSPAD、LMA、光合成・気孔コンダクタンスの計測も実施した。これらのデータを解析した結果、(1)クマイザサは林床の雪解け後から上層木の展葉開始前の期間が年間で最も樹液流速度が高く、それ以外の期間の樹液流速度は相対的に低いこと、(2)落葉性林床木のノリウツギやオオカメノキは、上層木の展葉前に展葉を開始するとともに上層木の落葉前にほぼ落葉を終了するため、両樹種の樹液流速度の季節変化は、クマイザサのそれとは明瞭に異なること、(3)先駆樹種であるカンバ類と二次林構成種であるミズナラでは、落葉時期だけでなく展葉時期も異なることから、これらの葉群フェノロジーの種間差が、樹液流速度の季節変化の種間差にも影響を及ぼしそうであること、などが示唆された。また、アウトリーチ活動として2016年11月に岐阜県高山市で開催された岐阜大学フェアでは、本研究の一部を一般向けの模擬講義において紹介した。昨年度整備した既存データの一部を、Ecological Researchのデータペーパーとして出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請課題の目的は、植生遷移に伴う落葉広葉樹林生態系機能の環境応答特性の変遷とその変動機構をフィールド観測による実証研究と生態系モデル研究の統合により解明することである。特に、[Ⅰ] 樹種別の量的(葉量)・質的(光合成能、気孔開閉)な葉群フェノロジーおよび生態系機能(水・炭素循環)の環境応答特性と、[Ⅱ] 遷移過程に伴う林分を構成する優占種の変遷、に着目することで、生態系機能の現状診断と変動予測の精緻化・高度化を図るために、次の4つの課題を順次実施する。(1)重点研究サイトにおける葉群フェノロジー、水・炭素動態観測および林分動態調査、(2)量的・質的な葉群フェノロジーの環境応答特性の解明とモデル化、(3)生態プロセス観測に基づいた植生遷移と林分構造の動的変化の解明とモデル化、(4)植生遷移段階毎の生態系機能の環境応答特性の解明と気候変動の影響評価。 本年度は、植生遷移初期から植生遷移後期の林分を構成するシラカンバ・ダケカンバ、ホオノキ・ミズナラ・ブナなど多様な樹種を対象に、樹冠カメラによる葉群フェノロジー観測および蒸散量観測を開始した。これらに加えて、昨年に引き続き、ノリウツギ・オオカメノキといった林床低木種やクマイザサの蒸散量観測についても、厳冬期を除き実施した。これら、重点研究サイトにおける葉群フェノロジーと水・炭素循環観測の強化によって、各樹種毎の葉群フェノロジーの特徴と蒸散量の季節変化の関係性が明らかになりつつあり、観測データに基づいた解析は順調に進んでいる。また、林分構造の動的変化を解明するための林分動態情報の蓄積も進んでいる。したがって、2年目の目標を概ね達成していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、重点研究サイトであるTKYを対象に昨年度に引き続き林冠木、林床木、林床ササ群落を対象とした樹液流観測を継続する。また、カメラによる葉群フェノロジー観測を継続し、幅広い環境/気象に対応した基盤情報を取得する。これらの観測情報とこれまでに蓄積された情報をもとに、樹種別の葉群フェノロジーのサブモデル化を進め、生態系モデルへの導入を進める。林分動態調査、個葉生理生態調査も実施し、生態系モデルの検証に資する。平成30年度はこれらの情報を統合し、植生遷移段階毎の生態系機能の環境応答特性の解明と気候変動の影響評価を実施する予定である。
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Research Products
(7 results)