2017 Fiscal Year Annual Research Report
新しい森林生態系の窒素飽和メカニズムの提案とそれに基づく脆弱性の診断
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15H04515
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
徳地 直子 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 教授 (60237071)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大手 信人 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教授 (10233199)
兵藤 不二夫 岡山大学, 異分野融合先端研究コア, 准教授 (70435535)
木庭 啓介 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (90311745)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 窒素飽和 / 硝酸態窒素 / 酸素安定同位体比 |
Outline of Annual Research Achievements |
我が国の多地点において採取された渓流水に対して、硝酸態窒素濃度(NO3-濃度)、その酸素安定同位体比の測定を行った。秩父サイトは、先行研究において窒素負荷量から3つの地域に分けられている(Tabayashi and Koba. 2011)。窒素負荷量の大きい地域ではNO3-濃度、fatmともに大きな値がみられ、さらに、窒素飽和の進行とともに、NO3-濃度とfatmの関係は図のように変化することが示唆された。しかし、近畿地方の窒素負荷量の大きくない地域において、図のように、集水域面積の小さい地点で秩父の窒素飽和地域よりも高いfatmがみられた。集水域面積が小さいと、滞水時間が短くなるため大気NO3-が渓流水中にそのまま流出しやすくなると考えられる。このことから、fatmを用いて森林の窒素飽和を検討する際には、窒素降下量に加えて、集水域面積も考慮する必要が示唆された。また、秩父以外の地域でも、NO3-濃度の低い地点ではfatmはばらつき、NO3-濃度の高い地点ではfatmは10%程度に収束し、窒素飽和状態にあると考えられる地点でも渓流水中NO3-に対する大気NO3-よりも硝化NO3-がかなり大きいことが分かった。さらに、NO3濃度もfatmも高い地点においては、渓流水のDOC/NO3-の値が小さく、窒素飽和に至る森林生態系内において窒素循環がC不足の傾向にあることが示唆された。さらにミャンマーにおける河川水の採水なども行い、これらも含め総合的に考察を加えた。これらのことから、窒素飽和の新たな指標として、NO3-とDOCの関係を詳細に検討する必要があることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定されていた我が国の多地点において採取された渓流水に対して、硝酸態窒素濃度(NO3-濃度)、その酸素安定同位体比の測定を行うことができた。また、それらの間に見られた関係は、当初予想されていたようにNO3-濃度の上昇に伴う酸素安定同位体比の上昇といった関係は見られないことが、δ18O、Δ17Oの両方から示された。すなわち、秩父以外の地域でも、NO3-濃度の低い地点ではfatmはばらつき、NO3-濃度の高い地点ではfatmは10%程度に収束し、窒素飽和状態にあると考えられる地点でも渓流水中NO3-に対する大気NO3-よりも硝化NO3-がかなり大きいことが分かった。このことは、窒素飽和がこれまでの理論的な解釈とはあわないことを示しており、新しい指標が必要であることを示唆する。 それに対して、窒素飽和には炭素の制限がかかっているという点に関しての検討を進めた。NO3-濃度と溶存態有機炭素濃度(DOC)の間の関係は従来示されているものに近く、次年度からこの関係について検討を進めることにした。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、昨年度同様我が国のなるべく多くの地点で河川水の採水を行う。特に、これまで窒素飽和が報告されてきた場所、あるいは、窒素降下量がそれほど多いとは考えられていない地点であるが、河川の窒素濃度が高い地点などを抽出し、周囲の窒素不飽和地点とともに採水を行う。加えて、より汎用性の高い指標を得るため、ミャンマーでのサンプリングを進める。 これらのサンプルに対して、これまで行ってきた窒素飽和の指標となる硝酸態窒素濃度の測定を生態学研究センターの木庭が、硝酸態窒素中の酸素および窒素の安定同位体比の測定を行い、岡山大学の兵藤がそれらの集水域の真菌・細菌の定量測定を行う。また、これらの地点の集水域に関して、その水文特性の解析を情報学研究科の大手が行う。 これらの硝酸態窒素濃度・硝酸態窒素中の窒素・酸素の安定同位体比・水文特性などを指標にし、窒素飽和度を示すことができるかを検討する。 もし、これらの指標が適切でない場合は、これまでの仮説を再検討する。例えば、窒素飽和が生態系への窒素負荷が生態系の生物的窒素要求量を上回ることによるとする定義をもとにした硝酸態窒素生成と土壌の微生物相に着目した解析などを進める。特に、窒素飽和と窒素不飽和の現象が距離的に近い地域、すなわち、窒素降下量に大きな違いがなく、植生・土地利用などの攪乱履歴にも大きな違いがないにも関わらず、窒素流出量に顕著な違いが見られる集水域間では溶存炭素の定性的分析を進め、土壌中の微生物相との関連について検討する。溶存炭素の分析には、溶存炭素濃度そのものの分析と共に、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析などを用いて、炭素の分子構造の詳細な把握とともに、その生物への可給性についても検討する。これらの結果を総合的に用い、窒素飽和のメカニズムについて考察し、窒素飽和の指標となるものについてまとめていく。
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