2015 Fiscal Year Annual Research Report
A study on the mechanism of canopy interception using stable isotopes of water
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15H04520
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Research Institution | Forestry and Forest Products Research Institute |
Principal Investigator |
村上 茂樹 国立研究開発法人森林総合研究所, 気象環境研究領域, 十日町試験地長 (80353879)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
服部 祥平 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (70700152)
登尾 浩助 明治大学, 農学部, 専任教授 (60311544) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 樹冠遮断 / 水安定同位体 / 飛沫蒸発 |
Outline of Annual Research Achievements |
雨水を1時間毎に自動採水する装置(雨水ディストリビューター)の仕様を業者と打ち合わせるとともに、この装置を設置するスギ林の選定、及び測樹を行った。対象としたスギ林に至る経路には急斜面があるため、木製の階段を作製・設置して安全に留意した。雨水ディストリビューターは合計3台設置した。すなわち、林外雨(スギ林外の裸地における雨水)を集水するために1台、樹冠通過雨(枝葉に一旦触れるか、又はまったく触れずに林内の地表面に達する雨水)の集水に1台、樹幹流(幹を伝わって林内の地表面に達する雨水)の集水に1台である。これら3台の雨水ディストリビューターは同期して一斉に作動する。雨水ディストリビューター1台について20Lのポリタンクを27個設置し、毎正時区切りで1時間毎に24時間(残り3個のタンクはその前後)の集水が可能な設定とした。一旦タンクに貯まった雨水は、長時間放置すると一部が蒸発して水安定同位体比が変化する可能性があるため、雨水ディストリビューターとタンクとをつなぐチューブにループを作り、ループ内に貯まった雨水をタンクに貯まった雨水の蒸発防止に利用した。 最大で24.5mmの降雨を含む5降雨の採水を行い、水安定同位体の分析を行った。樹冠通過雨の水安定同位体比は林外雨よりも大きい傾向を示し、樹幹流においては樹冠通過雨よりもさらに水安定同位体比が大きい傾向を示した。これは雨水が枝葉や幹に滞留している間に蒸発することにより、水安定同位体比が大きくなったためと考えられる。従って、解析を進めればその蒸発の定量的評価が可能と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
雨水自動集水システムを用いた水安定同位体に関する研究は世界的にほとんど例がない。Ikawa et al. (2011)では1時間単位で雨水自動集水システムを用いた採水を行っているが、そのシステムの構造上、雨量が少ない場合は採水することができかなった。本研究のシステムではIkawa et al. (2011)の弱点を克服し、雨量が0.3mm程度であっても水安定同位体比分析に必要な量の採水を可能とした。ただし、一旦タンクに貯まった雨水を手作業でポリビンに採水するまでの間に雨水が蒸発し、水安定同位体比が変化する可能性も考えられた。そこで気温が30℃を超え、日射が強い日にタンクにわずかな量の水を入れ、24時間以上放置した後に採水して蒸発の影響を調べた。その結果、タンク内の水については蒸発の影響による水安定同位体比の変化は検知されず、当初の想定通りわずかな量の雨水でも分析できることが分かった。さらに、チューブのループ内に貯まった雨水についても蒸発の影響が見られないことが分かり、雨量が0.1mm程度であっても雨水の水安定同位体比の分析が可能なことが示された。 このように、雨水ディストリビューターの動作、及び貯水・採水方法に問題がなく、わずかな雨量であっても分析用の雨水を採水できることが確認できた。水安定同位体比の分析結果は、林外雨、樹冠通過雨、樹幹流の順に大きくなる傾向を示した。ただし、林外雨の水安定同位体比は通常時間的に変動するため、これに遅れて追従・応答する樹冠通過雨と樹幹流の水安定同位体比との関係(すなわち樹体からの表面蒸発量)を単純に比較・検討することは困難である。これら3者の関係を解析することは、今後の課題である。雨水自動集水システムの確実な稼働状況、及び水安定同位体比の分析結果の妥当性を考慮すると、これまでのところ当初の予定通りの進捗状況であると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに分析を行った雨水サンプルは、一降雨の雨量が最大で24.5mmであった。その後、台風の通過に伴う64.5mmの降雨、及び温暖前線、寒冷前線の通過とその後の冬型の気圧配置による36.5mmの降雨のサンプリングに成功した。これらのサンプルを整理して水安定同位体比の分析を進めることで、降雨起源の違いによる水安定同位体比の変動パターンについて検討できる可能性がある。 また、水安定同位体比の分析結果と樹冠遮断観測の結果を併せて検討する。その結果を踏まえて、今後もスギ等の実際の林分における樹冠遮断観測、及び雨水のサンプリングを継続するか、あるいはプラスチック製クリスマスツリーを用いた実験等を行うか等、検討を行う。 林外雨の水安定同位体比は時間に変化する。これに伴う樹冠通過雨と樹幹流の水安定同位体比の追従・応答の遅れを考慮した解析方法として、タンクモデルの適用を検討する。具体的には、タンクモデルで仮定する蒸発量として、1)樹冠遮断の観測に基づいた値、2)林外雨の水安定同位体比と樹冠通過雨、及び樹幹流の水安定同位体比の差から算出される表面蒸発量、の2種類を仮定する。1)は樹体からの表面蒸発量と飛沫蒸発量の両方を含み、2)は表面蒸発量のみを含むことから、これらの差から飛沫蒸発量を算出できると考えられる。具体的には、Yoshida et al. (1994)のタンクモデルが適切と考えられる。このモデルは実際のスギ林分に適用され、妥当性が確認されているだけでなく、スギ林における水安定同位体比の時間変化を論じたIkawa et al. (2011)においても採用されており、信頼性の高いモデルであると考えられる。
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Research Products
(2 results)