2017 Fiscal Year Annual Research Report
東北型社会の特質に関する史的研究:地域資源の開発・管理・利用との関係を重視して
Project/Area Number |
15H04560
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
加藤 衛拡 筑波大学, 生命環境系, 教授 (70177476)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
湯澤 規子 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (20409494)
福田 恵 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (50454468)
渡部 圭一 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 学芸技師 (80454081)
芳賀 和樹 公益財団法人徳川黎明会, 徳川林政史研究所, 非常勤研究員 (00566523)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 東北地方 / 地域史 / 地域資源 / 農村社会 / 林政改革 / 本郷・枝郷 / 親方 / 請負業 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)「国有林経営の展開と地域社会」:芳賀(2017)は、国有林経営の前提となる近世秋田藩における林政の展開とその技術的な特徴を、山林資源管理の観点から学会報告し、論文に著した。同藩の林政は、用材・薪炭材の生産に留まらず、農政・民政、鉱山政策、殖産政策、人材登用策などとも密接に連動しつつ展開した。特に文化期にはじまる林政改革では、木山方役人が重要な役割を担い、「山林取立」を基本政策に、林政機構の整備、記録の作成、凶作への対応との関連に着目しつつ検討した。あわせて、藩営林の中心であった能代木山の用材林と銅山掛山の薪炭林の山林資源管理技術を分析した。この結果、19世紀には山林資源をめぐる知識の蓄積と、それに基づく山林資源管理政策の成熟、技術の進展がみられ、これを立案・実行できる人材の登場や林政機構の整備も認められることがわかった。 2)「東北型農村の社会史的研究」:渡部他2名(2017)では、従来の近代鉱山史研究は鉱山が必要とした資材調達の仕組みや、それにともなう山麓地域の社会と鉱山との関係を追究してこなかったのに対して、阿仁鉱山山麓に位置し、近世・近代の豊富な地方文書を所蔵する湊家の明治10~20年代の史料に着目し、村側に残された請負関係文書を分析した。請負人は地元で「親方」とよばれる村の有力者が独占的に務めていた。「親方」は近世には村役人を経験し、経済的上層にあり、地方自治制度の近代化のなかでも継続して村政を担ういわゆる地方名望家であった。彼らは村に雇用の機会を作り、その労働力を組織して多額の現金収入を獲得しようとする請負業に活躍の場を求めた。請負の遂行には複雑な文書の作成・管理が求められたが、「親方」層の家々は、近世の村役人としての経験を生かしてこれにあたったことを、木材・炭・薪・石炭生産それぞれについて解明した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1) 史料調査:北秋田市では、住民と協働による史料調査を続けてきた。①2017年度は米内沢・木村家文書の2016年度に完成させた目録を追加して完備し、当面分析予定の史料撮影を進めた。②阿仁水無・宮越家文書については、市民が進めた史料整理の点検作業が一部を除いてほぼ終わった。③上杉・工藤家文書の整理も進めつつある。加えて、④史料調査・分析で知り得た地域社会の生産・生活構造の特質について、地域資源の開発・管理・利用を中心にヒヤリング調査をしてきた。大正期以降の史料分析に活かすためである。 横手市では、横手士族を中心に明治18年(1885)に設立された「横手殖林組合(後に横手殖林社)」の史料調査を進めた。2017年度には新出の現用文書があり、その目録化を終え、4450点の史料目録を完成させた。あわせて重要史料の写真撮影もほぼ終えた。当科研研究会の開催や調査先での打合せで、横手殖林社に関する分析枠組みを模索した。 2) 分析:主要業績は「研究実績の概要」に示した。それ以外の研究発表は、秋田地域やその近代史を相対化するための報告である。 3) 研究成果の地元への還元:①研究成果である渡部他4名(2016)「公務日誌にみる近代村の成立過程」の別刷等を、北秋田市の関係者に配布した。②2018年3月、北秋田市文化財保護団体連絡協議会・北秋田市教育委員会主催の講演会が開催され、加藤が同市の史料調査を踏まえて、「古文書調査と地域づくり:将来の市史編さんを見すえて」と題し報告した。その内容は地域紙2紙に掲載された。
|
Strategy for Future Research Activity |
1) 調査:①北秋田市では、住民と協働による史料調査を一層進める。a)阿仁水無・宮越家文書は点検作業がほぼ終わり、新年度には目録を完成させる。b)上杉・工藤家文書の整理もできる限り進めたい。②横手市では、2017年度に「横手殖林社」の史料目録が完成し、重要史料の写真撮影もほぼ終わった。新年度には一部撮影し残した史料を撮影する。 2)分析:①「国有林経営の展開と地域社会」 既に撮影済の史料を利用し、文化期以降の秋田藩林政改革の成果である森林資源回復の実態、近世以来の計画的森林経営方法の継承と断絶、「仮施業案」等を利用した近代的経営への準備過程、「施業案説明書」を利用した国有林経営の展開につき、地域社会との関係を考慮しつつ分析を深化させたい。 ②「東北型農村の社会史的研究」 研究代表者・分担者の執筆で、阿仁荒瀬・湊家文書の重要な近世・近代史料の解題論文・翻刻をこれまでに5件発表した。新年度は、同家文書の明治後期に焦点を当て、資本主義経済の展開に対する東北型のムラの近代化や地方名望家の果たす役割を検討する。 ③「近代東北型社会の形成に果たす士族の役割:『横手殖林社』を中心に」 秋田藩では藩庁のある久保田のほかに、7か所に支城や館を置いた。その一つが横手である。その城下の武士・士族を中心に結成された横手殖林社の経営と地域社会との関係について、分担者と担当を決め、史料分析に着手する。③のテーマのほか、殖林社経営の展開を明らかにするとともに、殖林社の株主になることの意義、関係する横手町・朝倉村が最大の株主になる意味を探究する。横手町・朝倉村の農民にとって、同社有林は草肥・山菜・燃料の重要な採取地でもあった。その利用実態についても解明したい。
|
Research Products
(8 results)