2018 Fiscal Year Annual Research Report
東北型社会の特質に関する史的研究:地域資源の開発・管理・利用との関係を重視して
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15H04560
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
加藤 衛拡 筑波大学, 生命環境系, 教授 (70177476)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
湯澤 規子 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (20409494)
福田 恵 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (50454468)
渡部 圭一 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 主任学芸員 (80454081)
芳賀 和樹 公益財団法人徳川黎明会, 徳川林政史研究所, 非常勤研究員 (00566523)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 秋田 / 藩営林 / 官林 / スギの分布 / 東北方農村 / 親方 / 鉱山採掘 / 馬産改良 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)「国有林経営の展開と地域社会」:芳賀は17~19世紀における秋田藩・秋田県のスギの分布の変化を解明し、学会報告した。17世紀前半には建築用材生産のためスギ利用が増加し、17世紀後半にはスギ資源の減少が問題となった。阿仁川流域では17世紀後半から阿仁鉱山の開発が進み、製錬用の木炭・薪需要が急増した。その結果、阿仁鉱山周辺では、落葉広葉樹中心の森林管理がみられるようになった。明治初期に作成された官林台帳によると、阿仁鉱山周辺ではブナ・ナラが多く分布しスギの分布は少ない。こうした分布は、17世紀以降におけるスギの積極的な伐採に加え、鉱山開発と連動した薪炭生産の興隆と、それに対応した落葉広葉樹優先の森林管理の結果と考えられる。 2)「東北型農村の社会史的研究」:渡部他4名(2018)は、秋田県北秋田郡荒瀬村湊家文書を利用し、明治後期に焦点を当て、資本主義経済成立期における東北型農村の近代化や地方名望家の果たす役割を検討した。豊富な森林資源を擁する荒瀬村において、材木と薪炭は重要な生産物である。明治10~20年代の林産物の生産は、阿仁鉱山向けに湊家を含む数名の親方によって担われていた。20~30年代前半には、親方自身による鉱山の採掘が本格化した。阿仁川流域に点在する遠隔地の有力者と、村をこえた広域的な連携関係を結び、村内に稼ぎの機会を生み出した。30年代後半には、酒造や馬産の分野で、各部落の親方が相互に連携し、国策に対応しつつ新しい生産活動を活発化した。とくに馬産改良は荒瀬本村と枝郷部落を広く巻き込み、村の馬産を洋馬中心のものへと再編していった。 福田(2018)は、集落研究から林業出稼ぎ研究に至る調査の詳細なプロセスについて解説した。主として、山村研究において、村落調査と人の移動の調査を組み合わせることの学説上、調査上の意義について論及した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1) 史料調査:北秋田市では、住民と協働による史料調査を続けてきた。大小各種あるが、大きな諸家文書としては米内沢・木村家文書の目録作成を完成し、阿仁水無・宮越家文書は目録作業を進めている。史料調査・分析で知り得た地域社会の生産・生活構造の特質について、地域資源の開発・管理・利用を中心にヒヤリング調査をしてきた。近代以降の史料分析に活かすためである。横手市では、横手士族を中心に明治18(1885)年に設立された「横手殖林組合(後に横手殖林社)」の史料調査を進めた。2017年度には新出の現用文書があり、その目録化を終え、4450点の史料目録を完成させた。あわせて重要史料の写真撮影もほぼ終えた。 2) 分析:東北型農村には豪農・地方名望家の一形態である「親方」が重要な役割を担っている。その代表的ないえに当たる北秋田市阿仁荒瀬・湊家文書を分析し、2015年から毎年度論文と関係史料の翻刻をまとめてきた。2015年度は秋田藩における村社会の構造と村による耕地管理のあり方を、2016年度は公務日記にみる近代村の成立過程について、2017年度は明治中期の阿仁鉱山への林産物請負生産について、そして2018年度は明治中~後期における生業と地域ネットワークについてである。その他にも関連報告、論文等を公開してきた。 3) 研究成果の地元への還元:①これまでも研究成果の報告会を開催し、論文別刷りの地元関係者への配布をしてきたが、2018年度も研究成果である渡部他4名(2018)の別刷等を、史料所蔵者のほか北秋田市教育委員会など関係者に配布した。②北秋田市では米内沢・木村家文書などの目録、横手市では横手殖林社文書の目録を史料所蔵者をはじめ各市教育委員会等にデータとして届けた。
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Strategy for Future Research Activity |
1)北秋田市および周辺地域の調査 a史料調査:住民と協働による史料調査を進めている。阿仁水無・宮越家文書目録を完成させる。bヒヤリング調査:史料調査で知り得た地域社会の生産・生活構造の特質を、北秋田市とその周辺地域を対象に、地域資源の開発・管理・利用や労働力移動を中心に解明する。 2)横手市の調査:横手士族を中心に、明治18年(1885)に設立された「横手殖林組合(後に横手殖林社)」の史料調査である。4450点の史料目録を完成し、重要史料の写真撮影も進めた。目録に沿って史料写真を整理し、今後分析に着手できるようなデータベースを構築したい。 3)分析a「国有林経営の展開と地域社会」:撮影済の史料を利用し、文化期以降の秋田藩林政改革の成果である森林資源回復の実態、近世以来の計画的森林経営方法の継承と断絶、近代的経営への準備過程などつき、地域社会との関係を考慮しつつ基本分析を進めたい。また国有林を主な対象とした林業出稼ぎ・林業労働の観点から、課題に接近する。 b「東北型農村の社会史的研究」:これまで研究代表者・分担者の執筆で、阿仁荒瀬湊家文書の重要な近世・近代史料の論文を6点発表した。2019年度は、北秋田市阿仁荒瀬の湊家文書の中で、天保期から明治初期にかけての同家の事跡が記述される明治3年(1870)正月「勤労書上扣」を利用し、同家が近世の開発で地域に貢献した実態と、枝郷根子村の地主(村役人)で銅山掛山の御山守でもあった佐藤家の役割について解明したい。aに示した労働力の定住と移動の観点から、北東北農村の社会的特質も検討したい。 c「近代東北型社会の形成に果たす士族の役割:『横手殖林社』を中心に」:秋田藩では藩庁のある久保田のほかに、7か所に支城や館を置いた。その一つが横手である。その城下のの武士・士族を中心に結成された横手殖林社の経営と地域社会との関係について、基礎分析を進めたい。
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Research Products
(4 results)