2016 Fiscal Year Annual Research Report
ヌマエラビルにおける凍結耐性機構の解明とその利用に関する包括的研究
Project/Area Number |
15H04577
|
Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
鈴木 徹 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (50206504)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川井 清司 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (00454140)
萩原 知明 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (20293095)
黄川田 隆洋 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 上級研究員 (60414900)
鈴木 大 九州大学, 持続可能な社会のための決断科学センター, 助教 (90647489)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | ヌマエラビル / 冷凍 / 凍結耐性 / 飼育 / 遺伝子解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、クサガメに寄生する"ヌマエラビル"の特異的な凍結復元性のメカニズム解明とその機能の応用を狙った研究である。昨年度までに宿主クサガメと共にヒルを飼育するための環境条件を検討し、ほぼ屋内飼育槽内での飼育法の見通しが得られた。一方、天然採取ヒルのメタボローム解析に続きゲノム解析を行なったものの、微生物のコンタミネーションが解析を困難にしていることが判明し、飼育法と合わせて対策をとることで最終年度にはゲノムの解析をまとめ、クサガメの特異性を明確にする。組織蛍光染色評価からは、ヒルが緩慢な凍結によってダメージを受けると核崩壊した細胞が増大することが明らかとなった。また、発生初期の卵には凍結耐性が無いことが示され、成体の凍結耐性メカニズム理解へのヒントが得られた。最終年度は、細胞ダメージと組織全体のダメージの定量的相関を明確にする。また、機能の応用として、現在のところ成分として唯一多く含有することが分かったカルノシンの氷結晶成長抑制、また乾燥耐性を評価したところ、氷結晶成長阻害効果は見られず、抗酸化能による保護効果が期待される結果が得られた。 最終年度には、カルノシンまたはヒル体液のタンパク質凝集抑制、および膜機能健全化効果についても検討する。そして、最終年度として全成果から得られて知見を総合し、当初の目標に近づけるとともに、成果の公表を進める。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. ヌマエラビルの飼育技術の確立(鈴木 大):ヌマエラビルの分子系統解析を行った結果、種内の遺伝的変異が小さく、ホストの外来種クサガメとともに日本に侵入したと考えられた。また、飼育方法の確立に向けホストのカメとの飼育を継続し、水質記録とともに、ヒルの寄生率や成長段階について記録を続けた。2. ヌマエラビルの遺伝子発現解析(黄川田):既知のAFP (antifreeze protein)のホモログは少なくともトランスクリプトームデータ上には見当たらなかった。すなわち既知の凍結耐性因子のホモログでは無い新規の凍結耐性関連遺伝子が存在する事で、ヌマエラビルは凍っても死なない可能性がある。 3. ヌマエラビルの凍結耐性機構の解明 3. 1 ヌマエラビルの凍結組織の静的形態評価・分光学的評価(代表者 鈴木):組織学的にヌマエラビルは、超緩慢凍結では凍結によるダメージを受けることが判明。ダメージを受けた個体の組織染色観察の結果、細胞内の核構造が崩壊した細胞が組織内に多数派生することがわかった。3. 2 ヌマエラビルおよび体内成分の氷結晶成長に関する速度論的評価(萩原):研究分担者黄川田氏によるメタボローム解析より体内濃度が有意に上昇したカルノシンについて、氷結晶の再結晶化抑制効果、タンパク質変性抑制効果を調べた結果、カルノシンには、有意な氷結晶再結晶化抑制能は認められないこと、同一重量濃度のスクロースと同程度のタンパク質加熱変性抑制能を有することが分かった。3. 3 ヌマエラビルおよび体内成分のガラス転移特性評価(川井): ヌマエラビルから見出されたジぺプチドであるカルノシンが、凍結乾燥乳酸菌に対して、他の酸化防止剤と比較して高い保護効果を有し、保護効果は水分活性の高い領域において有効であることを明らかにした。一方、カルノシンの熱分析の結果、明確なガラス転移を捉えることができなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
1. ヌマエラビルの飼育技術の確立(鈴木 大):飼育方法技術確立に向けて、野外におけるヌマエラビルのカメ種群に対する寄生率や成長段階を定期的、また複数地点間の調査を行うことで、より詳細なヌマエラビルの生態解明を目指し、現在の飼育設備の完全飼育環境を確立する。 2. ヌマエラビルの遺伝子発現解析(黄川田):ヌマエラビルのトランスクリプトーム及びメタボローム解析に関して得られた知見を論文公表する。また、トランスクリプトームデータの真贋性確立には、ヒルに存在する微生物由来のDNAコンタミネーションが障害になっている。そのためヒルを抗生物質処理し微生物のコンタミ除去後ゲノムDNAを調整することで解析の改善を行い、良好なゲノムアッセンブルを得てトランスクリプトームデータのマッピングを行い、ヌマエラビルゲノムブラウザを構築する。 3. ヌマエラビルの凍結耐性機構の解明 3. 1 ヌマエラビルの凍結組織の静的形態評価・分光学的評価(代表者 鈴木):組織学的にヌマエラビルが超緩慢凍結により複数の細胞内核構造が崩壊することが判明した。この核の崩壊メカニズムを更に組織学的に追及するとともに、他のダメージについての組織学的特定を続け新たな凍結ダメージ防御仮説の構築を行う。 3. 2 ヌマエラビルおよび体内成分の氷結晶成長に関する速度論的評価(萩原):誘電緩和測定によるカルノシンと水の相互作用形態の解析を行い、氷結晶再結晶化抑制能の有無について分子論的解釈を行う。カルノシンおよびヒル体液のタンパク質の凍結変性抑制能の検討を行う。 3. 3 ヌマエラビルおよび体内成分のガラス転移特性評価(川井):引き続きカルノシンが乳酸菌の凍結乾燥保護に及ぼす影響を更に追求する。また、カルノシンのガラス転移温度を昇温レオロジー測定によって調べることで、カルノシンの凍結乾燥保護に対する作用メカニズムの解明を検討する。
|
Research Products
(4 results)