2016 Fiscal Year Annual Research Report
新たに出現したトリレトロウイルス性骨髄性白血病の疫学と病理
Project/Area Number |
15H04597
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
御領 政信 岩手大学, 農学部, 教授 (80153774)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
畑井 仁 鹿児島大学, 農水産獣医学域獣医学系, 准教授 (40566535)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | トリ白血病ウイルス / 骨髄性白血病 / リンパ性白血病 / グリオーマ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の初年度である平成27年度には岐阜県の卵肉兼用種に発生した骨化石症にトリのグリオーマが併発していることがわかり,これらグリオーマ例から トリ白血病ウイルス (ALV) GifN 株が分離された。これら成績に基づいて,28年度は岐阜県を含む東海地方および東北地方における腫瘍性疾患を病理学的に解析した。岐阜県および長野県の 6 養鶏場から合計21羽の腫瘍性疾患が摘発された。腫瘍性病変の大半は骨化石症が占め,ほかに腎芽腫,粘液肉腫および肝細胞腺腫が発生していた。また,これら罹患鶏のうち 6 例の脳にグリオーマが併発していた。さらに,19例中11羽の心筋線維筋形質内に ALV 感染時に出現する基質封入体が認められた。また,疫学調査の結果,これら罹患鶏の種鶏は平成27年度に見つかったグリオーマ罹患例と同一であることがわかった。以上の成績から,GifN 株またはこの近縁株がこれら鶏群に拡散していることが浮き彫りとなった。一方,青森県および岩手県では皮下または腹腔内腫瘍 5例が摘発された。これら腫瘍は形態学的にはマレック病あるいはリンパ性白血病とは異なる病態を示し,免疫組織学的検索により 2 例は T 細胞性リンパ腫,ほかの 3 例は B 細胞性リンパ腫であることがわかった。これら 5 例の神経系には星状膠細胞の増殖やリンパ球浸潤は認められず,また,心筋線維には基質封入体は認められなかった。さらに,これら 5 例から ALV の分離を試みたが,いずれの症例からも ALV は分離されなかった。T リンパ腫に関してはさらに検討する必要があるが,上記の成績により,ALV とは関連のない B リンパ腫が存在する可能性が推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トリ白血病ウイルス J 亜群 (ALV-J) による ML は現在も隣国の中国で多発している。本ウイルスは外来性 ALV が遺伝子組換えにより内在性レトロウイルスを取り込んで出現した新興ウイルスで,1980年代末にイギリスで初めて分離,同定された。日本国内では現在,本疾患の発生はないが,2013年から沖縄で ML 類似疾患が認められ,本州でも同様の病態が確認されている。また,岐阜,福島,岩手ではリンパ性白血病が確認されている。本研究課題はこれら腫瘍性疾患の原因や病態を病理学的解析,腫瘍細胞の性状解析,分離ウイルスの病原性解析を通して明らかにすることを目的とする。これまでの解析により,沖縄の ML 類似疾患には ALV の関与は低いことが明らかになった。一方,東海地方では骨化石症とグリオーマの併発例が多発し,ほかにも ALV と関連する腎芽腫や粘液肉腫が発生していることが明らかになった。これらの原因 ALV のシークエンス解析および病原性解析を現在遂行している。また,29年度解析予定の九州地方の日本鶏についてもすでに取りかかっていることから,上記区分とした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は東海地方と東北地方で摘発された鶏の腫瘍について解析した。これまでのところ,骨髄性白血病あるいは形態学的にリンパ球あるいは組織球由来と思われる腫瘍からは ALV は分離されていない。しかし,その一方で,東海地方では ALV と関連する骨化石症や腎芽腫,粘液肉腫,肝細胞腺腫が発生していることが明らかになった。そこで,今年度は分離された ALV の病原性を感染実験により解析するとともに,以前から ALV に感染していることが知られている九州地方の一鶏群の腫瘍発生状況と分離 ALV のシークエンス解析を行い,わが国で認められている ML 類似疾患やその他の腫瘍と ALV との因果関係を明らかにした上で,本研究課題の総括を行う。
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