2018 Fiscal Year Annual Research Report
膨大な害虫発生予察調査データから読み解く昆虫の適応進化
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15H04613
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
山中 武彦 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, 上級研究員 (50354121)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 安志 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹茶業研究部門, ユニット長 (80355619)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 世代サイクル / チャノコカクモンハマキ / チャハマキ / 周期性解析 / 病害虫発生予察事業 |
Outline of Annual Research Achievements |
H30年度は、1)チャノコカクモンハマキの野外長期予察データの時系列解析(昨年から継続)、2)チャノコカクモンハマキとチャハマキの混合長期飼育実験、3)チャノコカクモンハマキおよびチャハマキそれぞれの種内密度競争実験、の3つを実施した。 1)これまでの解析から、世代の長さは暖かい地域ほど、また温暖な年ほど、年間有効積算温量が増加して徐々に幼虫生長期間が長くなるものの、4化から5化の境目で成長時間の急激な短縮が見られ、ある閾値を越えると5化を年内に押し込んでいることが示されている。これは各地・各年の気象にリアルタイムで応答していることを示すが、生物がこれほど素早く進化適応するとは考えにくく、これは周期性解析の擬似生成物では無いかとの懸念が生じた。共同研究者のQueen's大学Nelson博士を招へいして、様々な検証を行ったが、統計手法はそれぞれの現象を正確に記述していることが証明された。つまり、日長反応に応じて成長速度を調節している可能性が浮上した。 2)チャノコカクモンハマキとチャハマキの1齢幼虫を同数ずつ、飼育容器に1月の間投入し続けて均等な齢構成の初期条件を作り出し、長期飼育実験を行ったところ、3つの反復全てで1世代経過する間にチャノコカクモンハマキがチャハマキを駆逐してしまった。チャノコカクモンハマキはチャハマキと餌資源をめぐって競争するだけではなく、チャハマキの前蛹・蛹を積極的に捕食するなど、直接的にも攻撃しているものと考えられた。この実験は次年度も継続する。 3)チャノコカクモンハマキおよびチャハマキそれぞれで導入する餌量を一定(2日に一回、0.5g投入)導入する1齢幼虫数を様々に変化させて蛹化成功数と蛹重、蛹化までの日数を計測した。その結果、どちらの種も密度が高くなるにしたがって生存率は直線的に下がるものの、成長速度・蛹重ともさほど密度の影響が見られなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
チャノコカクモンハマキの各地域個体群で、温度条件等に係る地域適応進化が起こっていないことが明らかにされつつあり、生活史形質に係る進化実験を行うことは困難であった。また、地域適応進化は成長速度に影響する考えていたが、野外長期予察データの時系列解析からは、秋季から冬季にかけての日長反応(=成長休止休眠)なくして世代時間の変化はありえないとの結果が得られつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
チャノコカクモンハマキの成長速度に関する地域変異がほとんどないことが明らかになったため、本種と同所的に生息し、生活史形質の違うチャハマキとの競争実験を行うことで、成長速度や種内・種間競争強度の違いが、それぞれの適応度にどのような影響を及ぼすか検証を進めている。さらに、チャノコカクモンハマキ・チャハマキの野外長期予察データ時系列解析について、昨年度に引き続きQueen’s大学のNelson博士を引き続き招へいして、特に日長反応を組み込んだ解析を継続する。次年度は、チャノコカクモンハマキとチャハマキの長期競争実験を継続すると同時に、短期競争実験を通じて競争強度パラメタを取得し、数理シミュレーションによる競争結果の帰結を室内実験結果と比較する。
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Research Products
(3 results)