2015 Fiscal Year Annual Research Report
好中球ネットーシス上のマイクロ血栓形成メカニズム解明とARDS治療法開発
Project/Area Number |
15H04686
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
西堀 正洋 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (50135943)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
白井 敦 東北大学, 流体科学研究所, 准教授 (20302226)
森 秀治 就実大学, 薬学部, 教授 (50220009)
高橋 英夫 近畿大学, 医学部, 教授 (60335627)
劉 克約 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (40432637)
和氣 秀徳 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (60570520)
勅使川原 匡 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (40403737)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 薬理学 / 蛋白質 / トランスレーションリサーチ / 敗血症 / Immunothrombus |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は、敗血症モデルマウスの血漿で著明に低下するタンパク因子をHistidine-rich glycoprotein (HRG) であると同定し、これを補充する治療法がマウスの敗血症による致死性を劇的に改善することを世界に先駆け明らかにしてきた(Sepsis Symp 2014)(特願2012-129232)。HRGの効果は、血管内微小血栓形成の抑制によりもたらされていた。本研究の目的は、敗血症性ARDS 肺における血漿HRG低下を起点とする好中球ネットーシスと微小血栓形成メカニズムを解明し、ARDS治療法を新規に提案することにある。平成27年度は、 1. マウス敗血症・腹膜炎モデルを盲腸結紮穿刺CLP(cecal ligation and puncture)により作製した。また、敗血症マウスの肺病理標本を検討した。好中球、NETosis好中球、血小板、フィブリンをそれぞれ特異染色するとともに、NETosisと血小板凝集反応、TF陽性単球の接着および凝固反応の時空間的関連性を明らかにした。 2. 敗血症性ARDSの進行と並んで致死性を高めている原因は、播種性血管内凝固症(DIC)である。肺ARDSが進行する時間帯を含んで、どのような時間経過でDICが進展しているかを、血小板数、プロトロンビン時間、部分トロンボプラスチン時間の測定で評価した。 3. 上記で明らかになった肺微小血栓形成とDIC進展の時間経過と血中サイトカインIL-6、TNF-α、 IL-1β、IL-18等の上昇経過の関係を明らかにした。 4. マウスCLPモデルを作製し、0、3、6、12、24時間後にELISA法を用いて血漿中HRG濃度を経時的に測定し、その低下の時間経過を明らかにした。 5. マウス肝実質細胞の初代培養系を用いて培養条件下での培養上清を回収し、HRGタンパクの分泌についてウェスタンブロットで確認した。その結果、微量分泌を検出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
敗血症モデル(CLP)マウスの血漿HRG低下から、好中球の血管内皮細胞への接着、好中球上での血小板凝集反応と凝固塊の形成過程を、敗血症性ARDS肺の病理学的検索でほぼ明らかにすることができた。つまり、CLPマウスの肺組織薄切々片上で、好中球(Gr-1)、血小板(CD24d)、フィブリン、MPO、HRGの多重染色を実施し、これらのマーカーがいずれも高頻度に重なっていること(Immunothrombosis)、外因性HRGの投与がImmunothrombusを抑制することを証明した。随伴する播種性血管内凝固症の進展と、高サイトカイン血症の進行も同時に検出し、それらの異常値に対する外因性HRGの補充効果を明らかにすることができた。このように、血漿HRGの低下を起点とし、Immunothrombosis免疫血栓形成に至る過程をかなりの程度解明したことによって、本研究の目的は、順調に達成されているといえる。血漿中HRGの低下の原因として、Immunothrombus上へのHRGの沈着をすでに見出しているが、その他に、肝実質細胞における発現低下が関与していることも検出している。肝実質細胞における転写制御の問題にアプローチするために、マウスの初代肝実質細胞培養の系を立ち上げたが、HRGmRNA発現量が極めて低く、HRGタンパクの分泌も微量にとどまることがわかり、解析系として利用することは困難であると判定した。敗血症時に亢進する凝固系最終産物として産生されるトロンビンは、HRGを効果的に分解することを示し、この機序が急速な血漿HRG低下の一因となることを明らかにした。 高サイトカイン血症の治療薬としてのHRG投与法は特願2015-154972、PCT/JP2015/85693として知財化した。さらに効果的な組換え体HRG製造法は、特願2015-198160として出願した。
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Strategy for Future Research Activity |
1. Immunothrombosis形成におけるもう一つの重要な細胞要素は血管内皮細胞である。そこで、血管内皮細胞(EA.hy926)に対するHRGの基本的作用として、刺激依存性の接着分子発現、活性酸素分子種(ROS)産生とアポトーシス誘導作用に対するHRGの保護効果を明らかにする。同時に血管内皮細胞の形態変化と血管透過性に対する効果を明らかにする。これらのHRG作用の解析には、血管内皮細胞内でのシグナリング解析が必須となるので、細胞形態に関してはRhok-inase-Rhoアクチン重合制御系、接着分子発現制御に関してはROS-MAP系あるいはPI3K-Akt系を中心に各シグナル変化を調べるとともに、薬理学的阻害薬を用いた実験を計画する。In vivo条件では好中球と血管内皮細胞の相互作用と接着が重要な要素となるので、共培養系の条件設定し、上記の細胞応答に対するHRG作用を解析する。In vivo条件においては、HRGと他の血漿因子あるいはDAMPs群との相互作用が重要であるかもしれない。これらの因子、例えばDAMPsの代表であるHMGB1は、Immunothrombosisの重要な促進因子なっている可能性がある。この点を検討するため、In vitro Immunothrombosisの系確立を検討する。 2. 前述した肝実質細胞初代培養系をHRGの発現調節解析に利用することは難しいことが判明したので、異なったアプローチによる転写制御解析を行う。具体的には、敗血症病態により上昇する転写因子と、高HRG動物の肝内転写因子の網羅的解析を行うことで絞り込みをかけ、候補遺伝子の肝細胞株への導入でHRG転写を測定するという手法を採用する。 3. 好中球上あるいは血管内皮細胞上のHRG受容体の探索を実施する。現在考えている手法は、精製HRGをビオチン標識し、細胞上結合を得た後化学架橋剤でリガンド‐受容体複合体を形成させ、それを精製後同定する手法である。
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Research Products
(15 results)