2016 Fiscal Year Annual Research Report
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15H04691
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
鈴木 教郎 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (20447254)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | エリスロポエチン / 低酸素 / 細胞保護 |
Outline of Annual Research Achievements |
エリスロポエチンは貧血治療薬として用いられている赤血球造血に必須のサイトカインであるが、その受容体の発現が造血細胞以外にも多くの臓器で検出されることから、心血管系や神経系などでも機能することが示唆されている。本研究では、エリスロポエチンの造血以外の機能を探索し、その作用機序を解明することを目的としている。 これまでに、脳において低酸素誘導的にエリスロポエチンを発現する細胞を同定しており、本年度は神経系でのエリスロポエチンの産生制御機構と細胞機能における役割に関する解析を中心に研究を進めた。その結果、神経系細胞におけるエリスロポエチン遺伝子の発現制御メカニズムは、腎臓や肝臓における発現制御メカニズムと異なることを明らかにし、論文発表した(Hirano et al, Mol Cell Biol 2016)。また、エリスロポエチン産生が低下した遺伝子改変マウスの解析を行い、造血不全に加え、腎障害が重篤化するという表現型を見出した。この現象は、本マウスにエリスロポエチン製剤を投与することにより改善させることができた(Suzuki et al, Haematologica 2016)。さらに、エリスロポエチン産生低下による貧血状態は、全身性の低酸素状態を惹起し、心臓を拡張させることを明らかにした。本マウスの心拡張は貧血の改善により速やかに解消された。以上の結果から、エリスロポエチンが直接的または造血を介して生体の様々な組織の恒常性維持に関与することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目的のひとつであった神経系細胞におけるエリスロポエチン遺伝子の発現制御メカニズムについて解析を進め、腎臓や肝臓とは異なる分子メカニズムで制御されていることを明らかにした。また、神経系エリスロポエチン遺伝子の制御メカニズムについて、論文発表することができた。さらに、エリスロポエチン産生が低下した遺伝子改変マウスの解析を行い、造血不全に加え、腎障害が重篤化するという表現型を見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
エリスロポエチン産生が低下した遺伝子改変マウスにおけるエリスロポエチン受容体発現細胞の挙動を解析することにより、造血以外にエリスロポエチンが果たす役割を探索する。とくに、脳神経系細胞に着目した解析を進める。また、エリスロポエチン受容体を造血細胞のみで発現するマウスを用いて、新たに同定したエリスロポエチンの役割を検証するために、低酸素負荷による神経細胞死や行動異常・学習能力低下など、個体を用いた総合的な解析を行う。また、神経系以外でも、発現解析の結果から重要性が示唆された組織におけるエリスロポエチンの役割を解析する。特に、心血管系や腎臓、固形腫瘍では、機能的なエリスロポエチン受容体が発現しているとする報告と、それを否定する報告が乱立しており、本研究は論争に終止符を打つことができると期待される。なお、ここでの成果は、エリスロポエチンの副作用の有無を決定づけるものであり、エリスロポエチンの適用外使用の可能性を判断する際に重要な情報を提供すると期待される。
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