2017 Fiscal Year Annual Research Report
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15H04691
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
鈴木 教郎 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (20447254)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 低酸素応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄は細胞障害性が高いため、鉄利用停滞や鉄過剰状態における臓器への鉄沈着は、ヒドロキシラジカルなどの酸化ストレス物質を発生させ、細胞障害を引き起こす。本年度の研究では、エリスロポエチンが赤血球における鉄利用を促すことにより、臓器の保護とエリスロポエチン自身の産生量維持において重要な役割を担っていることを明らかにした(論文投稿中)。また、鉄は酸化ストレスを介して臓器障害に関与するが、酸化ストレスが腎臓病を進展させることをマウスの実験により証明した(Nezu et al Kidney Int 2017)。 エリスロポエチンは主に腎臓尿細管間質の線維芽細胞(renal erythropoietin producing[REP]細胞)でつくられるが、REP細胞におけるエリスロポエチン遺伝子発現が鉄によって障害されることを見出した(論文投稿中)。また、このエリスロポエチン遺伝子抑制は、転写活性化因子HIF2alpha(hypoxia-inducible factor 2alpha)の機能抑制に起因することを明らかにした。 REP細胞はエリスロポエチン受容体を他の細胞に比べて高いレベルで発現しており、エリスロポエチン過剰投与により腎臓のエリスロポエチン遺伝子発現が抑制されることを見出した(論文投稿準備中)。この結果は、エリスロポエチン自身によるエリスロポエチン産生の負のフィードバック機構の存在を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
赤血球系細胞以外でのエリスロポエチン受容体の発現細胞において、エリスロポエチンの造血外作用が期待されるが、腎臓のエリスロポエチン産生細胞「REP細胞」自身がエリスロポエチン受容体を高レベルに発現していることを発見した。また、REP細胞におけるエリスロポエチンシグナルは、エリスロポエチン遺伝子発現を負に制御することを見出した(論文投稿準備中)。 エリスロポエチン発現が低下した遺伝子改変マウスを用いて、鉄が酸化ストレスの発生を介して臓器障害を引き起こすことを明らかにした。とくに、腎臓病モデルにおける酸化ストレスの関与を解明し、論文発表することができた(Nezu et al Kidney Int 2017)。本研究では、酸化ストレス応答を担う転写因子Nrf2の活性化剤をマウスに投与する解析を行い、その効果を実証した。現在、腎臓病に対するNrf2活性化剤の効果について臨床試験が進められているが、この成果により、薬効の分子メカニズムを明らかにすることができた。 REP細胞におけるエリスロポエチン遺伝子発現が鉄によって障害されることを新たに見出した。その機序として、エリスロポエチン遺伝子の転写活性化因子であるHIF2alphaの機能を鉄が抑制することを明らかにした。この成果は論文投稿中であるが、貧血治療における鉄剤投与の効果を検討するうえで、重要な知見を提供することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
エリスロポエチンが鉄利用を促進する分子機構の解析を行う。そのために、エリスロポエチン発現が低下した遺伝子改変マウスにエリスロポエチン製剤を投与し、ヘプシジンやエリスロフェロンなどの鉄利用制御因子の産生レベルの変化を詳細に調べる。また、それらの遺伝子発現制御機構の解析を個体レベルで行う。 鉄は酸化ストレスを発生させ、臓器障害を引き起こすことから、エリスロポエチンは鉄利用促進を介して臓器保護にはたらくと考えている。そこで、エリスロポエチンの鉄利用促進作用の意義について、酸化ストレス抑制の観点から研究を進める。これまでにマウス腎臓病モデルを用いて解析してきたので、引き続き、腎臓病におけるエリスロポエチン産生障害と鉄蓄積による酸化ストレス障害の関係について分子レベルの解析を行う。 REP細胞におけるエリスロポエチン受容体の高レベルの発現を検出したので、その役割を検討する。予備的実験により、エリスロポエチン過剰投与は赤血球造血誘導よりも短時間(6時間以内)に腎臓エリスロポエチン産生レベルを低下させることを観察している。そこで、REP細胞では、エリスロポエチン自身によるエリスロポエチン産生の負のフィードバック機構が存在すると考え、その実態解明とシグナル経路の解析を行う。
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