2015 Fiscal Year Annual Research Report
虚血性心疾患における心筋特異的ミオシン軽鎖およびリン酸化の意義とその治療への展開
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15H04826
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Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
北風 政史 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究開発基盤センター, 部長 (20294069)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
瀬口 理 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 医師 (60570869)
山崎 悟 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (70348796)
朝倉 正紀 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究開発基盤センター, 室長 (80443505)
中野 敦 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究開発基盤センター, 室長 (90648106) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 循環器・高血圧 / 虚血性心疾患 / 心筋梗塞 / 心筋保護 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究者らはヒト不全心筋の網羅的遺伝子発現解析より心筋型ミオシン軽鎖リン酸化酵素(cardiac-MLCK:cMLCK)を発見した。これまでの検討でcMLCKは、①心臓特異的に発現するキナーゼである、②心室型ミオシン軽鎖のSer15をリン酸化する、③培養心筋細胞におけるミオシン軽鎖リン酸化を介したサルコメア構造構築を促進する、④ゼブラフィッシュモデルにおける遺伝子発現抑制による拡張型心筋症様表現型が再現されることを証明してきた。さらに近年、⑤家族性拡張型心筋症家系の解析から、cMLCKの活性異常はヒトにおいても心筋症や心不全の発症につながるという結果を得た。また、これらの結果を支持する研究結果が多施設からも多数報告されており、cMLCK活性が正常な心筋の構造形成・維持や収縮性に重要であり、その異常により心筋構造の乱れや収縮性低下を引き起こし、心不全を発症する要因と成り得ることが明らかになってきた。心不全の原因として重要な心筋梗塞では、心筋細胞壊死に引き続き心臓リモデリングが誘導され、最終的に心筋構造の乱れと収縮性低下により心不全を発症する。そこで我々はcMLCKを介した心筋収縮・代謝改善とサルコメア構造維持は心臓リモデリング抑制につながる可能性を考え、心筋梗塞による心筋障害、リモデリングにおけるcMLCKの役割と治療標的としての可能性を探ることにした。まず、培養心筋細胞に低酸素刺激(1%酸素、30分)を与えてミオシン軽鎖のリン酸化状態の変化を調べたところ、そのリン酸化レベルが低下する結果を得ている。また、現在までにcMLCKに特異的に結合する擬天然ペプチドのHigh-throughput screeningを実施し、8種類のペプチドを獲得している。この8種類のペプチドについて、cMLCK活性に対する効果を測定するためin-vitroの活性測定系を確立し、その効果を評価したところ、複数のペプチドでcMLCK活性を抑制することが判明している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
培養心筋細胞に対する低酸素刺激の実験から、低酸素によりミオシン軽鎖のリン酸化レベルが低下する可能性が考えられた。現在、cMLCKを培養心筋細胞に過剰発現させるためのアデノウイルスを作製し、これにより低酸素によるミオシン軽鎖リン酸化低下をレスキューできるか検討を行っている最中である。また、ミオシン軽鎖のリン酸化低下は心筋梗塞にて低酸素状態にある心筋細胞においても誘導されている可能性があり、今後検討する予定である。さらに、cMLCKをマウスの心臓に発現させるためのAAVの作製も進めている。cMLCK活性制御剤の開発に当たっては、まずはその材料となる蛋白質(cMLCK、心室型ミオシン軽鎖およびcalmodulin)の大量精製を試み、cMLCKはSf21細胞を用いて、また心室型ミオシン軽鎖とcalmodulinは大腸菌を用いて、純度の高く活性を維持した蛋白質を全て自前で大量精製することに成功した。さらに活性評価方法としては2種類の方法を開発し、再現性のある評価系を確立できた。この評価系を用いてcMLCKに特異的に結合してきた8種類の擬天然ペプチドのcMLCK活性に対する効果を測定したところ、2種類の擬天然ペプチドにおいてcMLCK活性抑制効果をみることができている。今後はこの2種類のペプチドについて、そのcMCLKに対する特異性の評価を行うため、カウンターアッセイ系を確立している最中である。一方、化合物のスクリーニングに関しては、1200個の化合物ライブラリーを用いてSPRでヒットする化合物を15種類獲得できたが、いずれもcMLCKに対する活性への影響は認めなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
培養心筋細胞において低酸素刺激を与えた後、ミオシン軽鎖リン酸化の程度、サルコメア構造変化、および収縮性の関係を明らかにする。また、アデノウイルスを用いてcMCLKを発現させることで、ミオシン軽鎖のリン酸化を回復させることによるサルコメア構造および収縮性の変化を検討する。 心筋梗塞マウスを作製して梗塞部位、境界部位、健常部位のcMLCKおよびミオシン軽鎖リン酸化について評価する。さらにAAVによりcMLCKを梗塞心筋に発現させることで、リモデリングの抑制や心機能の回復が得られるか検討する。 cMLCKの活性抑制効果を認めた2種類の擬天然ペプチドに対しては、cMLCKに対する特異性を評価するため、骨格筋型MLCKおよび平滑筋型MLCKを用いたカウンターアッセイを実施する。特異性を得られた場合は、cMLCK活性制御機構の解明のため、および構造創薬の可能性を考えて、cMLCKと擬天然ペプチドの共結晶解析を予定する。さらにミオシン軽鎖の過度のリン酸化が病態発症の原因になると考えられる疾患を探索し、cMLCK活性阻害剤の治療薬としての可能性を検討する。 また、cMLCKの活性賦活剤を探索すべく、他の化合物ライブラリーを用いてHTSを行う。その際は、結合でなく活性を指標にしたHTSを構築する必要がある。
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