2016 Fiscal Year Annual Research Report
Cross-border migration in Central Eurasia and cultural transformations of Xinjiang Muslim society in the 19th to 20th centuries
Project/Area Number |
15H05162
|
Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
新免 康 中央大学, 文学部, 教授 (10235781)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
濱本 真実 公益財団法人東洋文庫, 研究部, 日本学術振興会特別研究員 (00451782)
田中 周 愛知大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (10579072)
小沼 孝博 東北学院大学, 文学部, 准教授 (30509378)
河原 弥生 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 研究員 (90533951)
秋山 徹 早稲田大学, イスラーム地域研究機構, 次席研究員(研究院講師) (90704809)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 中央ユーラシア / 越境 / 新疆 / ムスリム社会 / 文化変容 / 中国 / ロシア帝国 / ソ連 |
Outline of Annual Research Achievements |
新疆(中国領中央アジア)は中国の政治的領域の一部である一方、主要な住民であるテュルク系ムスリムの諸民族は現在に至るまで言語・文化面の独自性を維持してきた。その背景には、19世紀後半~20世紀半ばの歴史過程において、西方のロシア帝国領・ソ連領のムスリム地域から多大な文化的影響を受けたことがある。しかしその具体的な様相については、検討が進んでいるとは言い難い。そこで本研究は、海外調査による新規史料の取得と分析などの作業を通じて、これら地域と新疆の間の人的移動・交流の実態を明らかにした上で、新疆のテュルク系ムスリム社会における文化変容の様態を究明することを目的としている。それにより、広域的な越境移動のダイナミズムの中で新たな新疆近代史像を提示する。主な対象時期として、1880 年代~1910 年代と1930 年代半ば~1960 年代初頭という2時期を設定する。 本年度の調査研究においては、昨年度の調査に引き続き、19世紀~20世紀における、新疆と中央アジアの間の越境移動の基本的な状況に関する文字史料データの取得を図るとともに、実際の越境移動の実態と新疆・中央アジア両側の地域社会の具体相について把握するための実地調査・聞き取り調査を実施し、関連データの取得を図った。前者に関しては、台湾の文書館やヨーロッパの図書館において関連する文書史料・写本史料の調査・収集を実施した。後者においては新疆のイリ地域とタルバガタイ地域での実地調査に基づき、越境移動を考える上でポイントとなる国境地帯の都市の地域性に対する理解を深化させるとともに、イリ地域から移住したタシュケント在住ウイグル人研究者からライフ・ヒストリーの聞き取り調査を実施した。これらにより、とくにイリを重点地域とする形で、越境移動を背景とする、新疆における文化変容を検討するためのデータの蓄積が進捗しつつある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の調査研究においては、研究の手順である2段階、すなわち①ロシア帝国領・ソ連領(主に中央アジアとタタルスタン)と新疆の間におけるテュルク系ムスリム諸民族の移動と交流の具体的な様相を明らかにする。②これらの移動・交流との関連性において、新疆のテュルク系ムスリムの社会における文化活動、とくに文字文化とそこで担われる思想的営為が、どのように展開し、変容してきたのかについて検討を加えた。今年度の調査においては、①に関わる知見の基礎となる移動の実態とそれを規定してきた政治的条件に関する調査研究の継続・発展に加え、聞き取り調査や文献調査・収集を通して②へのアプローチを本格化させている。これにより、ロシア帝国期のロシア領-新疆・中央アジア間の交易の実態、1940年代における国民政府と東トルキスタン共和国およびソ連との政治的関係などに加え、越境移動の具体的な状況とそれを背景とした新疆-ロシア・ソ連領両側の地域社会における文化動態に関わる重要な知見が得られつつある。付随して、宗教的な側面における越境移動と地域社会との関係、新疆のテュルク系民族と中国内地との歴史的関わり、などについて興味深い側面が明らかになりつつあることも注目される。 また、平成27年12月に本科研の共同主催にて、本科研のメンバーの一部も報告者として開催した国際学術会議「中央ユーラシアの変容における新疆」をもとにした英文の論文集を、東洋文庫のTBRLシリーズの1冊として刊行すべく編集作業を進めてきており、最終原稿とりまとめに向けて、共同編著者の打合せも実施した。その結果、平成29年度中には、「越境」と文化変容の問題を含む、現状における新疆史研究の最先端の到達点を反映し、日本・合衆国・オーストラリア・台湾・カザフスタンの研究者を寄稿者とする刊行物の発行により、本科研の研究成果の一環を国際的に発信する目処が立っている。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の調査研究では、本年度に引き続き、主要な対象とする2つの時期におけるテュルク系ムスリム諸民族の越境移動の状況とその政治的・社会的背景に関するデータの取得と検討を行うとともに、実際の移動・越境に即した地域社会の文化動態について聞き取り調査等をもとに明らかにする考究を進め、それらの統合化を目指したい。具体的には、第一に、主にロシアの文書館・図書館における関連資料の調査収集をさらに進める。第二に、タタールスタンにおける文献調査と聞き取り調査により、新疆とタタールスタンとの人的な移動・交流の実態とその新疆ムスリム社会への影響に関するデータの収集を図る。また、タシュケント等にて、先祖も含め新疆-中央アジア間を越境移動した人々の経験・見聞に関する詳細なデータを聞き取り調査により収集し、個別の事例にもとづいて上記の知見を肉付けする作業に従事する。これらの知見の統合化を通して、越境と文化変容の実相に関する検討を深化させる。その際、中央ユーラシアにおける人的な移動・交流の中で新疆の内的な状況を定位し、その具体相にアプローチするという視点から、とくに①20 世紀初頭からの改革主義の伝播と推進、②新しい様式の文芸活動など文字文化の変容、③近代的な外来思想としてナショナリズムやコミュニズムの伝来と浸透、④活字メディアを介した文学・言論活動の進展、⑤ハイブリッドな新疆ムスリム社会の様相、などの側面に注目することを通して、立体的な考究を共同で実施する。 最終年度となる平成29年度においては、活動の集約化の機会として、平成29年12月に研究集会を開催する。そこでは、海外共同研究者である新疆のウイグル人研究者を招聘してその研究成果も交える形で、科研の成果の公開化と統合化を目指す。その上で、日本語での論文集の刊行に向けて準備を進めたい。
|
Research Products
(15 results)