2015 Fiscal Year Annual Research Report
中国の越境的移動・境界侵犯・異種混交より生成する新しい「社会」に関する実証研究
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15H05189
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
首藤 明和 長崎大学, 多文化社会学部, 教授 (60346294)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
王 維 長崎大学, 多文化社会学部, 教授 (10322546)
賽漢卓娜 長崎大学, 多文化社会学部, 准教授 (20601313)
南 誠 長崎大学, 多文化社会学部, 助教 (70614121)
森川 裕二 長崎大学, 多文化社会学部, 教授 (90440221)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 越境 / 境界侵犯、異種混淆 / 生成する社会 / 回族 / 華僑・華人 / 国際結婚 / 中国帰国者 / グローバル行為の規範 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、越境的な移動がもたらす境界侵犯や異種混交を通じていかなる社会が生成しているのかを明らかにすることである。中間的な成果として以下の知見を得た。 雲南保山Y村の調査では明清四大イスラーム漢文訳著家・馬注(1640-1711)に関連した資料を収集している。当地域の回族は、馬注の墓や故郷、伝承などの発見や、馬注思想の発揚を通じてまちづくりをおこなっている。彼らが漢族との「共生の作法」を模索していく基盤には、①「言説の資源」(話し方や書き方など自己表出、自己呈示の適切な選択を可能にする資源)、②この「言説の資源」のストックとフローを可視化する「地域」、③「歴史の逆説性」(解釈を通じて受難の歴史を反転させ誰に対しても居場所が開かれた世界を求めていく志向が「言説の資源」の方向を規定していく)などが存在する。 内モンゴル錫林郭勒盟D旗H合作社の事例では、①資本や資源をめぐる中心と辺境の時空間の圧縮と輻輳、②中央による現地住民当事者の排除、③生活や環境問題打開のために、民族の伝統的知識や社会関係資本をもつキーパーソンが、話し合い、参加、能力、地域などを制度化していくなかで発揮している問題解決能力を分析した。一方、越境する民族からそもそも民族性とは何かを問うために北京のモンゴル人二世へインタビュー調査を継続している。 中国残留日本人が多く居住していた黒竜江省F県の調査では、海外(とくに日本)流出と外国人の流入、現地での異文化共存の実態に対する理解を深めた。また、長崎の華僑・華人調査からは、異文化が生み出す観光価値を活用した観光戦略を分析している。さらには、日本の再生産領域(家族)における国際移動の実態と地域の国際化について現地調査を行い、国際結婚家族に対する支援のあり方を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的に照らしてみた場合、研究の進捗状況は次のように整理できる。(1)回族、モンゴル族、華僑・華人、「中国帰国者」による都市農村間および国家間の広範囲にわたる越境的移動の実態把握について、とくに移動の動機、その社会的・歴史的背景、送出地と移入先の関係、血縁や地縁、同窓などを媒介とした移住連鎖、移入先での先住者と移入者の関係、家族や民族、国家関係などに関して一定程度明らかにしている。 (2)移動の境界侵犯と異種混交に対する人びとの規範と実践の解明について、とくに雲南保山回族の「共生の作法」や黒竜江省F県の異文化共存の実態、長崎華僑・華人による伝統文化の再生による観光業の興業とそれを通じた人びとの相互行為や創発特性などについて、一定程度の解明が進んでいる。このことは、グローバル行為の規範や実践という理論的課題に対しても示唆を与えてくれるものである。 (3)国際結婚という再生産領域におけるトランス・ナショナルな移動が「国民的市民社会」(市民権よりも国籍に重きを置く市民社会)における親密圏の変容と公共的世界やコミュニティの再編を促し、グローバリゼーションにおける新たな社会の生成に導いていく可能性を明らかにしつつある。 (4)以上のような研究成果に基づき、他者をめぐる表象やディスコースに対する越境的移動の影響を考察することができる。すなわち、他者不在の「思想としてのアジア主義」を批判的に検討し、誰に対しても居場所が開かれた新たな社会モデルの提起を考える上で貴重な材料となり得るものである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、前年度研究体制を引き継ぎ、本調査を実施する。若干名の調査補助員を採用し、収集した統計データ、史料、文献を整理する。インタビュー調査では、(a)移動を促進する歴史的、文化的、社会的背景、(b)移動にともなう境界侵犯と異種混交がもたらす社会変化や文化変容、(c)移動をめぐる規範と実践、(d)移動にともなう文化の循環性(再生、転生、創生など)と新しい「社会」の生成や変遷などを精査する。調査は国内外とも10日間程度とし、海外調査では海外共同研究者も参加する。 調査地と研究課題は次のようになる。中国における回族とモンゴル族、日本における華僑・華人と「中国帰国者」、東南アジアやカナダ、アフリカ・ザンジバルなど海外における華僑・華人や中国系ムスリムを対象として、主にインタビュー調査と現地資料および公文書館資料等の収集を通じて、移動の動機やその社会的・歴史的背景、送出地と移入先の関係、移住連鎖、移入先での先住者と移入者の関係、家族や民族、国家との関係などを明らかにする。 本調査の前後や分析作業の節目には、3回程度、研究打合せ会及び研究成果交流会を実施する。特に今年6月には国内外の研究者を招聘し、本研究の中間報告に関して議論する。研究成果交流会は公開セミナーとし、本研究体制の外部からも若干名を招待して中間的評価を受ける。さらに、国内学会で研究成果報告を行い、中間成果報告書を作成する。
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Research Products
(25 results)