2015 Fiscal Year Annual Research Report
単一種のマングローブの植林による生態系と景観の改変の実態把握と改善法の開発
Project/Area Number |
15H05219
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
浅枝 隆 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40134332)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山口 雅利 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (20373376)
ラシッド エムディハルノオル 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (80643262)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | マングローブ植林 / Rhizophora stylosa / Avicennia marina / Sonneratia alba / 種の遷移 / 樹木管理 / 海岸生態系 / 海岸保全 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、フィリピン中部セブ市の沖にあるオランゴ島南部の湾およびバナコン島において観測を行った。なお、バナコン島では60年前からマングローブ植林が行われ、マングローブ植林のモデル地区とされている島であり、オランゴ島では、30年前から植林が行われている。いずれの島においても、植林は、胎生種子を25㎝の間隔で極めて密に行われた。観測では、まず、ヘリコプターで、全体の概況を把握、その後、踏査によって、地形や冠水頻度等の特性に合わせた地域割を行った。次に、植林された林および自然のマングローブ林に区分け、ドローンによって樹木の詳細な分布を把握した。次に、それぞれの場所において、コドラートを設け、その中の樹木を、種ごと、成木、幼木に分けて数え、種の分布およびその密度を求めた。これにより、以下が明らかになった。オランゴ島南湾では、南部に冠水頻度の高い石灰岩の基盤が広がり、北部は風化土砂が堆積、比高が高く冠水頻度は低い。植林は南部、境界部に限られていた。一方、バナコン島では、大半が冠水頻度の高い場所であった。冠水頻度の高い場所では、植林されたRhizophora stylosaの優占度が最も高く、ついで、元々の優占種である、Avicennia marina 、Sonneratia albaの順であった。比高の高い場所では、元々の優占種の他に、Osbornia等の低木が優占していた。植林された群落では、ほぼR.stylosaのみが高い密度で生育していた。また、個体密度は、初期には個体同士の間隔が広く十分な日射があるものの、10年程度の間に密生、日照不足から、その後は個体密度は徐々に減少、50-60年程度の間に、1000-2000ind/haの密度に収束する。さらに、他の樹種の侵入は極度に制限され、一旦密に植林されれば、60年経過しても単一種の群落が保たれることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
観測の対象としているオランゴ島、バナコン島共、自然林の中に植林されたマングローブ林が散々しており、この見分けが極めて困難なことが予想された。しかし、地元のNPOの人の案内を仰ぐことで、この点を解決でき、100を超えるコドラートの設置が可能になった。この点は、研究を進展させるのに大きく役立った。 また、対象としたバナコン島がフィリピンだけでなく、世界的に見て植林が最初に行われた場所であること、また、植林されたマングローブの生存率が極めて高いことが判明、現在世界で得られる最長の植林後の経過時間を経た状態を把握できた。これにより、文献調査等から得られるより新しい植林場所との比較が容易になり、世界各国の植林されたマングローブ林の個体数の観測結果と合わせることにより、個体数変化の予測を可能にした。 こうした結果は、国際会議において好評を博し、Esturine, Coastal and Self Scienceに採択、掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度以降には、まず、植林されたマングローブ林で生成される胎生種子の分散能の把握を行う。これには、現地で植林されたマングローブの樹木形態から得られる植林時期と葉の遺伝子と近郊に広がるマングローブ群落の葉の遺伝子を比較することで、移動の把握を行う。次に、潮の干満に伴う流動をシミュレーションする数値モデルを作成、胎生種子の落下から定着までの過程をモデル化することで、植林されたマングローブの胎生種子の伝播経路を求める。以上の結果を比較検討することで、植林されたマングローブの拡大の評価を行う。 次に、マングローブ植林においては、植林された樹木の生存率が低い場所も多く、生存率を上げるために、密な植林を行う必要があるとされてきた。そのため、効率的な植林を行うためには、植林されたマングローブの枯死の要因の把握を行う必要がある。植林されたマングローブの枯死の原因としては、これまで、幼木の波浪による機械的破壊、小動物による胎生種子の捕食が挙げられてきているが、H27 年度の観測で、波浪が高くない場所や小動物が少ない場所においても枯死率の高い場所が多くみられた。このことから、各地に植えられたマングローブ林を調査、他の要因を探し出す。また、H27年度の観測から、栄養塩濃度の高い場所では枯死率が高いことが得られた。特に、植林の対象となっているRhizophora stylosaは貧栄養な水域に生育している場合が多く、近年熱帯諸国の海岸で生じている汚水の廃水は問題となっている可能性が高い。この仮説に基づいて、栄養塩濃度を変化させた実験系を作成、胎生種子を植え、発芽率、生長速度等、生理特性を調べる実験を行う。この結果より、植林されたマングローブの枯死の原因の把握、さらに、推奨される植林場所についての整理を行う。さらに、多様性を増やすために、Avicenia等の他の種の植林法を開発する。
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Research Products
(3 results)