2017 Fiscal Year Annual Research Report
亜寒帯バイカル湖のカジカ類の湖底1600mまでの適応放散を分子・生活史から探る
Project/Area Number |
15H05235
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
木下 泉 高知大学, 教育研究部総合科学系黒潮圏科学部門, 教授 (60225000)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田原 大輔 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (20295538)
岩田 明久 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 教授 (20303878)
馬渕 浩司 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 主任研究員 (50401295)
安房田 智司 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (60569002)
酒井 治己 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産大学校, 教授 (80399659)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | バイカル湖 / カジカ類 / 適応放散 / 種分化 / 古代湖 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017度では,昨年度に引続き,結氷直前のバイカル湖央盆において,遺伝分子情報の今だ僅少な種類の採取,遊泳性カジカのコメフォルスとコットコメフォルスの初期生態,特に耳石日周性およびこれら2属の繁殖生態をより詳細に明らかにした. 半遊泳性のコットコメフォルス属仔魚の日齢解明に扁平石と星状石の断面を露出させるため研磨した結果,耳石の中心部と周辺部では,輪紋のコントラストや太さに明瞭な差が確認された.よって,浮遊生活期を送る本属では,変態輪や着底輪である可能性が示唆された. バイカルカジカの起源は無鰾で底生性の淡水カジカ科とされるが,それらは体外受精で,雄の卵保護と共通の特徴を持つ.バイカルカジカはこの湖で適応放散したことで,同科中に体外と体内受精種(胎生種)を有し極めて珍しい.今回,このタイプの胎生種である深湖性のコメフォルスを用いて,交尾や胎生の進化に伴う繁殖生態や精子の多様化機構をみた.桁網と稚魚ネットにより,本属魚類を活かして採取し,成熟雄について世界で初めて精子形態や遊泳速度の計測に成功した.精子は湖の水では不活性で,体内と同等張液中で活性であったことから,体内環境に適応進化していることが示された.一方,精子全長は海産カジカ類の交尾・雄保護種と同程度で,丸型の頭部はむしろ体外受精種に近かった.しかし,雄は小さく鉤状で本属特有の交尾器を有し,本属の繁殖行動を窺うことができた. 今回,これまで希少であった深所性のAbyssocottus korotnefii, A. plathycephalus, Asprocottus abyssalis, Limnocottus griseus, L. ipallidusの各成魚と L. bergianusの稚魚を少なからず桁網によって水深300-500 mの湖底から採集でき,今後の類縁関係ならびに遺伝分子研究に大いに貢献できる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
露国特有の制度で,サンプルの持出し許可が一向に下りず,サンプルの処理・同定現地で行わざるを得ず,そのため,それらの解析がどうしても遅延してしまう状況である. 現地で運用しているバイカル博物館所属のRVテレシコフのウインチとワイヤーがかなり老朽化しており,我々の希望する水深帯のサンプルの供給が困難な状況である,2018年度では,RVのエンジンも含めてそれらの改修を期待している.
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Strategy for Future Research Activity |
コットコメフォルス類耳石の研磨を試みたが,他のカジカ類よりも脆く,研磨の途中で破損する事例が多発した.今後は,包埋樹脂の変更や,研磨方法の改良などを行って,バイカルカジカ類の耳石輪紋観察法を早急に確立する必要がある. 2018年度は,沿岸域に生息する体外受精種の数種について,産卵場所や卵保護形態などを明らかにするために潜水調査を実施する.また,これらの体外受精種の卵保護オスを採集して,精子形態や運動性などの精子特性を測定する.また,2017年度と同様に,沖合で胎生種の採集を行い,精子の形態や運動性を調べる.胎生の場合,雌の体内に子がいる可能性もあるが,これまでほとんど観察されたことがない.そこで,採集から分かる繁殖生態情報も収集する.最後に,繁殖生態および精子の形態や運動性を体外受精種と胎生種で比較し,バイカルカジカにおける繁殖生態や精子の進化プロセスを明らかにしていく. コメフォルス属およびコットコメフォルス属の個体発生は属レベルでは明らかにできている.2018年度では,種レベルでの識別を遺伝分子情報と相補的に絡めて確率する.さらに,種分化および適応放散に関する研究の材料として,今だ僅少もしくは皆無の魚種の採取を湖央盆域において挑みたい.
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Research Products
(15 results)