2016 Fiscal Year Annual Research Report
タイ王国トラート川河口マングローブ林における土壌生態学的研究
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15H05240
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
大塚 俊之 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 教授 (90272351)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
近藤 美由紀 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境計測研究センター, 研究員 (30467211)
金城 和俊 琉球大学, 農学部, 准教授 (30582035)
藤嶽 暢英 神戸大学, 農学研究科, 教授 (50243332)
吉竹 晋平 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 助手 (50643649)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 土壌圏炭素 / 溶存有機炭素 / 溶存無機炭素 / 腐植 / 炭素循環 / マングローブ |
Outline of Annual Research Achievements |
タイトラート川河口のマングローブ林においては、DIC動態の解明のために24時間に渡って河川水を1時間ごとにサンプリングして、pH, EC, 塩分濃度、DIC濃度を測定した(雨季の2016年7月と乾季の2017年1月)。雨季では河川の塩分濃度は潮位変動に関わりなくほぼ一定で0.05%以下であった。雨季では、DIC濃度も低く(0.45 - 0.59 mmol C L-1)、ほとんど変動が見られなかった。一方で、乾季では塩分濃度は1.5%を超え潮位変動に伴い満潮時には2.5%程度まで増加した。DIC濃度は、潮位に伴う変動は明確では無いが雨季より3倍程度高かった(1.5 - 2.2 mmol C L-1)。河川流量と流域の大きなトラート川では海水に比べて河川水の影響が大きく、石垣島吹通川でみられる日変動よりも、乾季・雨季による季節変動が重要である事が示唆された。DIC-δ13CについてはDICを沈殿化させる方法を検討した。淡水に近い場合には依頼分析の結果とほぼ同等の値となったが、海水が混入して塩分濃度が高くなると両者に大きな違いが見られる場合があり、様々な塩の影響によって同位体分別が起こる可能性が示唆された。さらに、石垣島ではマングローブ林の土壌圏炭素(SOC)に与える河川の影響を調べるため、吹通川の溶存有機物(DOM)の解析を行った。フミン物質割合は源流から海にかけて減少する傾向を示し、吹通川源流水中のフミン物質割合は他の非有色水系河川に比べて高い(55.8~75.9%)事から、マングローブ林を含む沿岸生態系へのフミン物質の供給源として重要な役割を果たしていることが示唆された。潮位変動に伴う海水塩の影響により、マングローブ林内土壌に難分解性のフミン物質が選択的に吸着・保持されることがSOC蓄積に寄与していると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、タイ王国チュラロンコン大学のグループによって生態学的な炭素循環研究が行われてきた熱帯マングローブ林サイト(タイ王国トラート県トラート川下流)において、日本の石垣島マングローブ林で長年行ってきた土壌生態学的な手法を取り込んで、土壌炭素プールの定量的評価とその動態を比較生態学的に明らかにしようとするものである。本年度は雨季と乾季の二回に渡って、タイ王国トラート川河口での現地調査を行った。雨季の2016年7月2-11日においては、まず土壌深度1m以上の深さまでの土壌炭素プールの定量的な評価を行うために、トラート川河口の河川沿いに成立する Avicennia 帯から、Rhizophora 帯と、陸地に近い立地に成立する Xylocarpus 帯の3ヶ所の植生帯ごとにピートサンプラーを用いた土壌サンプリングを行った。これらの土壌サンプルについては、最終年度での炭素窒素分析や炭素安定同位体比分析に向けて、現在前処理を行っている段階である。また石垣島の吹通川と同様に、河川水中の溶存有機物(DOM)がマングローブ林の土壌炭素蓄積に与える影響を調べるために、前回乾季に行ったのと同じ方法で上流部から海までの水サンプリングとDOM成分の分析を行った。これらのデータは現在解析中である。さらに研究実績に挙げたようにトラート川の河口において、雨季だけでなく乾季である2017年1月10-15日の2回にわたって、1時間ごとの水サンプリングを24時間継続で行い、河川水質(pH, EC, 塩分濃度)の変動とDIC濃度の連続測定を野外で行った。それぞれの項目についてチュラロンコン大学やタイのDepartment of Marine and Coastal Resources (DMCR)などの協力を得て、タイ王国トラート川流域での調査についても、ほぼ計画通りに進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の推進方策としては、当初の計画通り1)土壌炭素の分解フラックスの定量、2)水を介した溶存有機物 (DOM) の動態、3)土壌炭素の起源と蓄積速度の三つの手法から、マングローブ林における特に土壌の巨大な炭素プールに対する流域全体の寄与を明らかにすることを目的とする。1)については石垣島では潮位変動に伴うDIC濃度の明確な日変動が観察され、マングローブ由来DICの評価が可能となった。最終年度は河口域での水交換量とDIC濃度の季節的な測定に基づいて流域からの分解DICフラックスの定量的評価を試みる。一方でトラート川ではDIC濃度の日変動は乏しく、沈殿法での DIC-δ13C の分析についても難しい事が示唆された。また広大な河口では水交換量の測定も難しい。従ってタイ・トラート川のサンプルについては依頼分析等により別の手法でDICの炭素安定同位対比の分析を行い、塩分濃度に基づく海水―淡水混合モデルから土壌有機物起源のDICの割合について推定する。2)DOMの動態としては、石垣島吹通川では河川DOM中のフミン物質のマングローブ林での吸着が明らかとなった。タイのトラート川においても昨年度までに乾季と雨季において、河川上流部から河口さらに海までの水サンプリングを行い、DOM濃度と質(フミン物質の定量的評価)の空間的分布について解析中である。3)土壌炭素プールについては、タイ・トラート川のマングローブ林でも昨年度に深度1m以上までの土壌のサンプリングを済ませており、最終年度はその土壌サンプルの炭素量及び炭素同位体比 (δ13C) の分析を行う。また予算的に可能であれば、放射性炭素同位体 (Δ14C) の分析も行い、植生帯ごとの土壌炭素プールの定量的評価と、その起源分析及び蓄積速度の推定を行う予定である。
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Research Products
(9 results)