2016 Fiscal Year Annual Research Report
癌転移機構解明に向けた近赤外発光・電顕併用白金ナノプローブと生体ナノ計測法の開発
Project/Area Number |
15H05354
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Research Institution | Kure National College of Technology |
Principal Investigator |
田中 慎一 呉工業高等専門学校, 自然科学系分野, 准教授 (30455357)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 1分子計測 / ナノバイオ / 生物物理 / 癌診断 / 電子顕微鏡 / 光化学 / 近赤外光 / ナノ粒子 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体適合性の高い近赤外領域に蛍光特性を有する白金ナノクラスターの合成とそれらを使用して生体分子プローブを調整した。さらに、電気泳動を用いて生体分子と白金ナノクラスターとの結合について評価し、生体分子プローブとしての光学特性・生理活性について確認した。作製した生体分子プローブを用いて、乳癌細胞(SK-BR-3)を蛍光標識し、顕微鏡観察を実施したところ、細胞表面から強い蛍光が観察され、蛍光プローブとしての有用性について確認できた。 蛍光性白金ナノクラスターは鋳型分子であるPAMAM Dendrimerと金属(白金)イオンを低温下で反応させてから、還元反応によって合成した。次に、超遠心分離機及び近赤外蛍光検出器を備えた高速液体クロマトグラフ(HPLC)を使用して不純物を取り除き白金ナノクラスターの単離・精製を行った。 続いて、アミン系化合物でリガンド交換を行い、白金ナノクラスターを鋳型分子から取り出してからHPLC精製及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化法による質量分析(MALDI-MS)を実施した。精製した白金ナノクラスターについてアダプタータンパク質であるProtein Aとカップリング反応させてから、乳癌細胞(SK-BR-3)に特異的に結合するHerceptin(HER2)抗体と結合させて生体分子プローブを調整した。生体分子プローブについては電気泳動を用いて評価し、白金ナノクラスターの蛍光と生体分子のバンドが一致したことから、白金ナノクラスターによる生体分子の修飾について確認した。 調整した白金ナノクラスター分子プローブを使用して、SK-BR-3細胞を標識し、蛍光観察を実施したところ、細胞表面から明るい蛍光が観察され生体プローブの有用性について実証することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は生体適合性の高い近赤外領域に蛍光特性を有する白金ナノクラスターの合成とそれらを使用して生体分子プローブを調整し、生細胞観察まで実施した。 合成した白金ナノクラスターについて生理食塩水中でも効率よく機能するカップリング剤(4-(4,6-Dimethoxy-1,3,5-triazin-2-yl)-4-methylmorpholinium Chloride n-Hydrate(DMT-MM))を使用してHER2抗体と結合させたがあまり反応が進まなかった。そこで、その原因を解明するため、MALDI-MSと電子顕微鏡観察を実施した。MALDI-MSの測定結果と電子顕微鏡観察結果から、合成された白金ナノクラスターはハイドロカーボンらしき有機化合物中に包埋されていることが確認され、このハイドロカーボンによって、白金ナノクラスターと生体分子との反応が阻害されたと考えた。そこで、HPLCでの精製条件だけでなくハイドロカーボンの除去及び生体分子プローブの合成について検討するために数か月要した。 HPLCでの精製条件について再検討してハイドロカーボンを除去した後、再度、生体分子プローブを調整したところ、精製前に比べて反応効率は格段に向上した。そして、調整した分子プローブを癌細胞(SK-BR-3)へ投与し、蛍光観察を実施したところ、細胞表面から明るい蛍光が観察され生体分子プローブとしての有用性を実証できた。しかしながら、現時点では生体分子プローブの合成条件について最適化できていないためin vivo イメージングへ展開できるほど高濃度の生体分子プローブが調整できていない。そこで、in vivo イメージングまで実現できる生体分子プローブの合成条件について再検討する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は白金ナノクラスターの精製条件と生体分子プローブの合成条件の最適化である。 電子顕微鏡観察とMALDI-MSの測定結果から存在が明らかとなったハイドロカーボンは白金ナノクラスターの合成で使用した還元剤が合成後に変性してできた化合物で、白金ナノクラスターと水素結合のような弱い相互作用によって結合することで、それらを覆っていると考えられる。そこで、アミノ化合物でリガンド交換後に白金ナノクラスターの表面が負電荷を帯びていることと、ハイドロカーボンの水素結合が溶液を塩基性にすることによって分解できることから、塩基性緩衝液を使用して陰イオン交換クロマトグラフィーを実施することによって、白金ナノクラスターをハイドロカーボンから分離可能となる。ハイドロカーボンを除去することによって、電子顕微鏡観察により詳細に分子構造(結晶構造)を観察できるだけでなく、白金ナノクラスター表面に存在する官能基と生体分子との反応効率が格段に向上することが期待される。 続いて、生体分子プローブの合成条件については、次のように検討していく。まず生体分子プローブを合成するために使用したカップリング剤(DMT-MM)は生体高分子に対して反応効率が著しく下がるため、白金ナノクラスターに対するDMT-MMの割合を増やしたり反応時間や反応温度について検討することで、最適な条件を見つけていく。そして、調整した生体分子プローブについては電気泳動などで確認後、カートリッジカラムなどで濃縮・精製し生細胞や生体観察へ使用する。 今年度の研究成果から、これまでに生体分子プローブの合成や電子顕微鏡観察で大きな妨げとなっていた原因を特定できただけでなく、それらを改善する方法について見出せていることから、次年度の研究計画である生体1分子観察について遂行可能であると期待できる。
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