2017 Fiscal Year Annual Research Report
Formation Process of Early Andean Civilization: A Perspective from Periphery
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15H05383
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
松本 雄一 山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (90644550)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 古代文明 / アンデス文明 / 神殿 / 地域間交流 / 文明形成論 / 複雑社会論 |
Outline of Annual Research Achievements |
H29年度はペルー共和国アヤクチョ県ワマンガ市において、H28年度に行ったカンパナユック・ルミ遺跡発掘調査で出土した遺物の整理と分析作業を行った。主な遺物に関しては写真撮影を実測作業を行ったが、特に出土量の多かった土器と石器に関してはこれまでのデータに基づいた詳細な型式学的分類を行った。この作業によって今後の遺跡編年をより精緻化する見通しが得られた。他の遺物、土製品、骨角器、人骨、動物骨に関してもコンテクスト別に整理を行いその出土状況を分析した。今年度の分析によって、神殿の基壇上と神殿外部の在地的儀礼空間において行われた儀礼行為の具体的な様相が明らかとなった。カンパナユック・ルミ遺跡において神殿の中央基壇で行われた儀礼のなかには埋葬を伴うものが存在するが、そのなかには在地の儀礼に見られるような頭骨のみを用いるものは見つからなかった。一方で、神殿の外側の発掘のデータは、人間の頭部のみを儀礼空間に埋葬し、それを別の場所に移すという行為がより広い範囲で、神殿の最盛期にも行われていたことを示した。つまり、カンパナユック・ルミ遺跡では、その歴史を通じて(紀元前1000-紀元前500年)神殿とその外部で異なる儀礼が行われ続けていたという見通しが得られたことになる。アンデス文明初期形成における異なる宗教間の通時的関係というテーマを具体的に論じるための貴重なデータが得られたといってよい。 また、昨年度までに行ってきたカンパナユック・ルミ遺跡出土黒曜石の原産地分析の成果に基づいて短期間の踏査を行った。三ヶ所の露頭より採取された黒曜石サンプルは現在ミズーリ大学において分析が進められており、カンパナユック・ルミ神殿をめぐる地域間交流を明らかにする一助となることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H29年度は、H28年度に行ったカンパナユック・ルミ遺跡発掘調査で出土した遺物の分析作業に焦点を当てた。出土遺物の量が当初の想定を超えたものであったが、これまでの調査で確立した登録・整理方法と形式分類を適用することで効率的に分析作業を行い、前年度の発掘で出土した建築を遺跡編年の中に位置づけることができた。その結果として、神殿の内部と外部の大きな違いが浮かび上がってきたことは、本研究の主題である「アンデス文明の初期形成過程を、従来アンデス文明形成の“周縁”とされてきたペルー南部から捉えなおすこと」を大きく進展させた。これまでの調査では、神殿の外側で見つかった在地の儀礼空間が例外的な存在なのかどうかが不明であり、神殿での儀礼と在地の儀礼の関係を具体的に理解することは困難であったが、昨年度の発掘調査と今年度の遺物分析により、在地の儀礼空間が神殿の最盛期に神殿外部に広く分布していたこと、神殿内部と在地の儀礼空間では出土遺物の構成が異なることが確認された。このような具体的なデータをここまでの調査で確立された絶対年代編年と組み合わせることで、アンデス文明形成過程において“周縁”とされてきた地域の動態が解明されつつある。さらに昨年度の発掘以前に得られた踏査や、黒曜石の理化学的分析などのデータに関しても出版が進んでおり、近い将来により包括的な論考を提示することができると思われる。また、ここまでの調査は結果的に、これまで事例の少ない「アンデス形成期における神殿以外のデータ」を蓄積することに貢献している。特に神殿外部で複数の儀礼空間を確認したことはこれまでの「神殿と居住域」という単純な二項対立的な視点が不適切であることを示唆しており、今後の新たな調査テーマを提示することにも寄与している。
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Strategy for Future Research Activity |
カンパナユック・ルミ遺跡におけるこれまでの調査では、異なる様式の儀礼空間が併存していたことが明らかとなり、神殿とその外部の関係を通時的に考察するためのデータが得られている。特に神殿の外側で発見された複数の在地様式の儀礼空間では、儀礼行為の具体的様相が解明されてきた。その一方で、神殿の内部における儀礼行為の直接のデータは未だ不足していると言わざるを得ない。昨年度の調査によって中央基壇上での儀礼行為が一部明らかになったが、それはあくまで基壇に対応する儀礼であり、神殿建築の中心的要素の一つである広場で行われた儀礼行為に関する直接の証拠は未だに得られていない。この点においては、昨年度の調査において中央基壇上で発見された円形半地下式広場が重要である。この建築は北に600km離れた大神殿であるチャビン・デ・ワンタルとの関係を如実に示す建築要素であり、中央アンデスに分布する同時期の神殿のなかでも数少ない事例の一つである。昨年度に発掘されたのは全体の10%未満と考えられるが、今年度の出土遺物分析によって、広場を放棄する際に饗宴を伴う儀礼が行われた可能性が示唆された。広場で行われた儀礼行為の実態を理解するチャンスであり、この円形広場を重点的に調査することで神殿の外部と内部の儀礼行為をより具体的に比較することが可能となるだろう。また、この広場の編年的位置づけを絶対年代資料によって明確にすることで、チャビン・デ・ワンタルをはじめとする北の大神殿群が、カンパナユック・ルミを含む“周縁”に位置していた集団と交流し始めた時期を高い精度で特定することが可能となる。今後の研究において、円形広場の発掘は、本研究の重要なテーマである“周縁”の社会を、遺跡内の差異と地域間交流という二つの異なるレベルから考察することを可能とするだろう。
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