2015 Fiscal Year Annual Research Report
ハイエク思想の大衆化に関する研究:新自由主義はどのように「ネオリベ」となったか
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15H05390
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
吉野 裕介 中京大学, 経済学部, 准教授 (00611302)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ハイエク / 新自由主義 / 自由主義 / リベラリズム / モンペルラン・ソサエティ / オーストリア学派 / ネオリベ / ネオリベラリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の主目的は,思想家本人の言説と人びとへの受け入れられ方との「ずれ」を,「新自由主義の大衆化の過程」の観点から考察することにある。実際には【人物→組織→地域→総合的考察】の四段階の順で考察していく予定だが,その一年目は人物に着目し,ハイエクとフリードマンの自由主義経済思想を比較した。 より詳しくは,ハイエクの経済思想研究を基軸に置き,思想家本来の「新自由主義」と一般の人びとに受け入れられた「ネオリベ」との「ずれ」,専門家と大衆を結ぶ役割を担う学術的な「組織」が思想潮流の形成に与えた影響,さらにこうした思想が現実の「地域」に適用される時に起きた意味の変容について問題を認識するに至った。 専門分野の学会誌『経済学史研究』に執筆したAngus Burgin, The Great Persuasion: Reinventing Free Markets since the Depression, Harvard University Press, 2012の書評を書き上げるなかで明らかになったことは,自由主義経済思想が,常に思想的・思弁的な活動と現実社会の緊張関係のなかで発展や衰退を繰り返してきたという事実である。したがって,自由主義経済思想そのものと人口に膾炙した「ネオリベ」との差異を認めるとき,そのズレの原因の解明のため次に必要なのは,思想が現実に与えた影響力の考察であることがわかった。 また,米国スタンフォード大学経済学部所属のロバート・リーソン氏編纂の研究書シリーズに論文の掲載が決まり,その改稿を進めている最中である。この論考は,次年度に出版される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要欄に記したように,研究課題に関する問題の考察については進展が見られたものの,それを成果物として公表するには至っていない。ただしその理由については,研究初年度ということもあり,資料の収集や存在の把握,研究環境の整備など,より基礎的な作業を優先したことにも原因があると認識している。それゆえ,計画の特段の遅れとも言えないのではと判断し,区分を「(2)おおむね順調に進展している」とした。2年目以降は,資料の収集と共に成果の獲得に向けた研究を進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
上に記したように,本計画で重要となる論点を認識するに至ったため,今後はその吟味をさらに深めつつ,研究成果の収穫を必要とする。このため,より基礎的かつ重要だと思われる先の二年間の研究計画「人物」と「組織」に関する論文の執筆を優先して進行する。そのうえで,四年目が終了するまでに,三年目の計画を論文として仕上げられるよう進行を調整する。また,必要な資料はすべて研究代表者自らが一から集める必要があり,若干不足している。このため,国内外における資料の収集,具体的には本の購入やアーカイブの入手などを優先的に進める必要がある。
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Remarks |
2015年5月 経済学史学会 第12回研究奨励賞受賞(著書『ハイエクの経済思想:自由な社会の未来像』に対して)
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Research Products
(8 results)