2016 Fiscal Year Annual Research Report
認知柔軟性実行に関与する神経回路網転移の生理心理学的研究
Project/Area Number |
15H05400
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
橋本 佳奈 (岡田佳奈) 広島大学, 医歯薬保健学研究院(医), 日本学術振興会特別研究員(RPD) (50528263)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 神経回路網 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、いずれも認知柔軟性に関与することが報告されている前頭前皮質、線条体、海馬等の領域について、それらが形成する神経ネットワークが認知柔軟性の機能をどのように果たしているのかを、損傷法や神経活動測定などの手法を用いて解明することを目標としている。前年度までの研究では、主に場所課題の逆転学習や手掛かり課題と場所課題のセットシフト学習、反応課題と場所課題のセットシフト学習における当該神経ネットワークの役割を、損傷法や組織学的手法によって検討した。結果、(1) 空間逆転学習に関しては回避型学習(水中グリッド迷路)と報酬型学習(修正丁字迷路)の別に関わらず線条体背内側コリン作動性神経細胞損傷によって亢進される。(2) 空間課題と手掛り学課題を用いたセットシフト学習では、回避型学習ではセットシフト後が空間課題であっても手掛り課題であっても同損傷によって学習が亢進した。一方、報酬型のセット学習では、手掛り課題の獲得とセットシフト学習がともに成立しなかった。手掛り課題失敗後の空間課題では損傷ラットの成績が統制ラットよりも悪かった。 今年度はまず、修正丁字迷路を用いて、空間課題と反応課題からなるセットシフト学習と短期、中期、長期の試行間間隔を設けた反応学習の逆転学習に対する線条体背内側コリン作動性神経細胞損傷の効果を検討した。同時に、共鳴特性を持ち、場所細胞の柔軟性やワーキングメモリに関与していることが示唆されているHCN1チャネル(非選択的な過分極活性型陽イオンチャネル)がオペラントによる聴覚性弁別課題においてどのような役割を果たしているかを検討した。 その結果、中期、長期の試行間間隔の実験条件下では、空間学習だけでなく反応学習での逆転学習においても線条体背内側コリン作動性神経細胞の関与が存在することが認められた。セットシフト学習に関しては、同神経細胞の関与が見られなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究では、行動の認知柔軟性に係る神経機構の詳細を明らかにするため、イムノトキシン細胞標的法によってラットの背内側線条体コリン作動性介在神経細胞を選択的に損傷し、空間課題と反応課題からなるセットシフト学習を行うとともに、短い試行間間隔と中間の試行間間隔、長い試行間間隔の訓練スケジュールを用いて、修正丁字迷路における反応学習及びその逆転学習における、学習成績とエラーの性質を検討した。先行研究では認知柔軟性の調節の方向性に関しては議論が分かれており、研究者によって、当該コリン作動性介在神経細胞が逆転学習の遂行を促進しているとしているものと、逆に空間記憶の逆転学習の遂行を抑制していると主張しているものがあるのだが、我々は、この不一致の原因に、試行間間隔の長さや扱う学習の種類の違いがある可能性があると考えたため、試行間間隔を3種類設けるとともに、これまで研究で主に用いられてきた空間課題ではなく反応課題における逆転学習を更なる検討の対象とした。さらに、これまでコリン作動系の関与に関しての結果があまり報告されてこなかったセットシフト学習に関しても検討を行った。結果、線条体背内側コリン作動性神経細胞は空間課題と反応課題からなるセットシフト学習への関与を示す証拠は得られなかった。更に、短期の試行間間隔の反応課題では同損傷によって獲得段階で障害が見られた。中期および長期の試行間間隔では、獲得学習は正常に成立したが、逆転学習段階では学習が亢進した。これは、反応学習とその変更過程において、3段階の時間的に異なる過程が進行しており、その3段階に関して視床-線条体間の神経ネットワークに関わるコリン作動系がそれぞれ異なる方向性で関与していることを示唆するものであった。場所細胞の柔軟性やワーキングメモリに関与が考えられているHCN1チャネルの聴覚性弁別課題における役割を検討した。
|
Strategy for Future Research Activity |
来年度は、修正丁字迷路でのセットシフト学習や課題の獲得とその逆転学習の遂行に伴う柔軟性に関して線条体や前頭前野、海馬などの標的の神経回路がどのように関与しているのかを電気生理学的解析を交えて詳細に検討する。更にHCN1チャネルが聴覚性弁別課題獲得とその逆転学習やセットシフト学習についてどのような役割を果たしているかを同様に検討する。 まず、背内側線条体コリン作動性介在神経細胞を選択的に損傷したラットと正常ラットの前頭前野や海馬、線条体の神経活動が迷路での動物の行動に伴って変化するのかを局所細胞外記録の時間的周波数解析等を用いて検討する。先行研究において認知柔軟性の調節の方向性に関して議論が分かれている原因として試行間間隔を最も大きな候補として考えているが、獲得学習中の潜在的な損傷効果や損傷による補償効果、線条体内のまだ知られていない機能局在、他領域の機能亢進などの可能性にも留意して研究を進める。また、セットシフト学習については、同細胞損傷効果が見られる課題の組合せが他にあるかどうかについても調査を進める。 また、HCN1ノックアウトマウスの聴覚性弁別課題において、獲得中や逆転学習、セットシフト学習中の標的領域の神経活動がどの様かであるかを行動の変容と関連付けて検討する。先行研究ではHCN1ノックアウトマウスが空間記憶亢進を示しているが、迷路学習だけでなく、本研究のオペラント実験においても何からの学習亢進が見られるのかどうかについても留意して研究を進める。 現在、迷路課題遂行中のラットやオペラント課題遂行中のマウスにおける標的部位のユニット記録を計測するシステムを構築しつつある他、電極埋め込み位置に関しても検討を進めており、これらの検討完了後に上述のような電気生理学的な検討を伴う行動実験を行う予定である。
|