2016 Fiscal Year Annual Research Report
結晶性分子薄膜におけるラジカルスピンダイナミクスの研究
Project/Area Number |
15H05420
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
三輪 真嗣 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (20609698)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | スピントロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度は超高真空薄膜作製評価装置の立ち上げ、フタロシアニン薄膜のエピタキシャル成長、エピタキシャル成長膜の電気伝導の初期評価まで行った。そこで本年度は(1)フタロシアニン薄膜と無機物、具体的には酸化マグネシウム(MgO)とのヘテロエピタキシャル成長、(2)フタロシアニンラジカルスピンの評価を行った。 (1)に関してはFe(001)上に成長させたフタロシアニンの上にMgO(001)がエピタキシャル成長することを見出した。フタロシアニンの膜厚依存特性を丹念に調べたところ、フタロシアニン薄膜はLayer-by-layer成長していること、そしてフタロシアニンが単分子膜のときだけフタロシアニン上にMgOが成長することを見出した。(論文執筆中) (2)得られた知見を用いてFe/コバルトフタロシアニン/MgOヘテロエピタキシャル膜を作製し、コバルトフタロシアニンのラジカルスピンを放射光X線を用いて評価した。Fe(001)上のコバルトフタロシアニンのラジカルスピンは室温においてFe(001)と接する単分子層のみがスピン偏極することがわかった。スピン磁気モーメントは0.9 uB程度であり、バルクコバルトの6割程度の磁気モーメントであった。また軌道磁気モーメントは比較的大きく、0.25uB程度あることがわかった。このように高品質フタロシアニン薄膜のラジカルスピンを検出することに成功した。(2017年春の応用物理学会で発表) これ以外にはアモルファスAla3薄膜の電気伝導特性に対し、Alq3の膜厚及び電極材料(Nd, Au)依存性を評価した。陰極にNd、陽極にAuを用いた接合でAlq3の有機磁気抵抗効果の観測に成功した。一方で電流安定性の改善が困難であることから今後は高品質フタロシアニン薄膜の研究に注力することを決定した。(2017年春の応用物理学会で発表)
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に超高真空薄膜作製評価装置の立ち上げ、フタロシアニン薄膜のエピタキシャル成長、エピタキシャル成長膜の電気伝導の初期評価を行った。具体的には(001)金属薄膜の単結晶分子線エピタキシーの知見を用いてフタロシアニン分子のエピタキシャル成長を試みた。結果としてAu(001)下地層上に銅フタロシアニンがエピタキシャル成長することを見出した。銅フタロシアニンのエピタキシャル成長は反射高速電子線回折(RHEED)により実験的に行った。またRHEEDで得た電子線画像を解析できる独自プログラムを開発し、フタロシアニン薄膜の結晶構造を同定した。結果としてフタロシアニンの単斜晶の双晶がAu(001)上に形成されることを見出した。 次年度にフタロシアニン薄膜と無機物、具体的には酸化マグネシウム(MgO)とのヘテロエピタキシャル成長を試みた。結果としてFe(001)上のフタロシアニン単分子層上に(001)酸化マグネシウム単結晶を成長させることに成功した。この高品質Fe/フタロシアニン/MgO接合におけるフタロシアニンのラジカルスピンを評価し、大きな軌道異方性等の良好な実験結果を得た。大きな軌道異方性は大きな電気磁気効果の発現を示唆し、本研究の目的であるラジカルスピンの電気的制御の成功に資するはずである。 このように新規に導入した大型備品を最大限有効活用し、順調に研究成果が出ている。研究は当初の計画通り進んでおり、最終年度はラジカルスピンの電気的検出及び制御に取り組む。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでにフタロシアニン薄膜のエピタキシャル成長、Fe/フタロシアニン/MgOのヘテロエピタキシャル接合の作製成功、フタロシアニンのラジカルスピンの検出に成功し、ラジカルスピンの大きな軌道異方性などを見出した。次はこれらの知見を用いてフタロシアニンにおけるラジカルスピンの更なる評価および外場制御を目指す。具体的には下記の事柄を行う。 (1)フタロシアニンのラジカルスピンが持つ磁性を精査する。具体的には放射X線を用いてフタロシアニンが有するラジカルスピンの軌道磁気モーメントを精査する。フタロシアニンにはコバルトフタロシアニンを用いて800eV付近の軟X線MCDを用いて分光を行う。 (2)確立したフタロシアニンと無機物のヘテロエピタキシャル技術を利用し、フタロシアニンのラジカルスピンを電極とした磁気トンネル接合を作製・評価する。本科研費で購入した薄膜製評価装置の特性を活かし、フタロシアニンの膜厚に対する磁気トンネル接合の応答を精査する。 (3)磁気トンネル接合を用いてフタロシアニン及びフタロシアニンが含有するラジカルスピンに高効率に電界を印加し、ラジカルスピンダイナミクスの電気的制御を試みる。 次年度は最終年であるため、このような方策により当初の目標であるラジカルスピンの電気的検出・制御を目指す。 (4)計画にはないが、予定以上の成果を得るために新たにフタロシアニンを含有するFe/フタロシアニン/MgO/Feに加え、フタロシアニンのラジカルスピンをPtと組み合わせたPt/フタロシアニン/MgO/Fe接合を作製し、面内及び面直電流に対する応答をも評価する。面内電流ではPtにおけるスピンホール効果のフタロシアニンラジカルスピンへの影響を精査する予定である。
|
Research Products
(10 results)