2017 Fiscal Year Annual Research Report
高強度テラヘルツパルス技術による超伝導体のヒッグスモードの研究
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15H05452
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松永 隆佑 東京大学, 物性研究所, 准教授 (50615309)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | テラヘルツ分光 / 超伝導 / ヒッグスモード |
Outline of Annual Research Achievements |
超伝導における集団励起モード(ヒッグスモード)は線形応答では光と相互作用しないためこれまでほとんど調べられていなかったが、超伝導ギャップエネルギー以下の高強度テラヘルツ波を用いて非線形応答を調べることによって、ヒッグスモード由来の応答を検出することができるようになる。ただし集団励起と同時に個別励起(電荷密度揺らぎ)による非線形応答の影響も同時に現れるため、集団励起と個別励起の寄与を区別して理解する必要がある。BCS平均場近似の下では集団励起よりもむしろ個別励起の寄与のほうが非常に大きいことが指摘されていたが、BCS理論では無視されてしまう対形成相互作用の遅延効果まで取り込むと集団励起の寄与のほうが大きくなるため、理論から定量的に比較することは非常に難しい。 そこで我々は、結晶軸に対する入射電場の偏光依存性を調べることで、対称性から集団励起と個別励起を区別する実験に取り組んだ。単結晶の窒化ニオブに対する偏光分解テラヘルツ非線形透過測定を行い、第三高調波を観測して3次の非線形効果の対称性を調べることによって、集団励起の寄与のほうが支配的であることを明らかにした。この結果は、BCS理論がよく成り立つとされる従来型超伝導体においても、その非線形応答を記述する際にはBCS平均場近似が破綻していることを示している。 さらにd波の対称性を持つ銅酸化物高温超伝導体に対しても高強度テラヘルツ波が誘起する非線形応答を調べた。偏光を回転させることで可視域の反射率変化の対称性を調べ、対称性ごとに分類した。個別励起ではB1g対称性の応答が最も強くなるはずであるが、実験ではA1g対称性の応答が最も大きく、これは集団励起の全対称モードによる非線形信号であることがわかった。これはd波超伝導におけるヒッグスモードを初めて観測した実験となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」欄で述べた成果は、従来型超伝導体(窒化ニオブ)に関する研究はPhysical Review B誌のRapid Communicationsに掲載された。またd波高温超伝導体(ビスマス系銅酸化物)に関する研究はPhysical Review Letters誌に掲載され、Editors' Suggestionに選出された。 そのほか、マルチバンド超伝導体における非線形応答から集団励起を調べる実験が進んでいるほか、臨界電流ぎりぎりの電流下においてヒッグスモードを線形応答で検出する実験も進んでいる。これらはいずれも日本物理学会で報告し、論文投稿に向けて準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの超伝導体に対する高強度テラヘルツ実験は、ニオブ酸リチウムの光整流効果を利用した1THz近傍の周波数帯に限られていた。超伝導ギャップエネルギーの小さい従来型超伝導体ではこれが適していたが、銅酸化物高温超伝導体やマルチバンド超伝導体MgB2などにおいて非線形応答と非平衡ダイナミクスを調べるには、より高周波の高強度テラヘルツ発生が求められる。今年度はニオブ酸リチウムを窒素冷却してフォノン吸収を抑えることで3THzほどの帯域での高強度テラヘルツ発生を可能にする。さらに10THz以上の高周波テラヘルツ領域における高強度光源を開発し、超伝導研究に適用する。
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Research Products
(12 results)