2015 Fiscal Year Annual Research Report
高分子半導体におけるコヒーレント伝導発現要因の解明と伝導モデルの構築
Project/Area Number |
15H05455
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松井 弘之 東京大学, 新領域創成科学研究科, 助教 (80707357)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 有機電界効果トランジスタ / 高分子半導体 / ポリマー半導体 / バンド伝導 / ホール効果 / 高配向性薄膜 / イオン液体 / 高移動度 |
Outline of Annual Research Achievements |
高分子半導体は、π電子を含む有機分子が重合した系であり、構造の乱れや欠陥が多い。そのため、伝導機構は専ら局在した電子によるホッピングであるとの考え方が根強く、移動度はせいぜい一桁cm2/Vs 程度に留まると考えられてきた。本研究は、Hall 効果測定等によって高分子半導体のバンド伝導性を見出した提案者らの研究成果に基づいて、高分子半導体における構造とバンド伝導発現の相関を明らかにすることを目的とする。平成27年度は、二つの異なる高分子半導体材料としてCDT-BTZ-C16とCDT-BTZ-C20を用い、配向化処理を行ったそれぞれの薄膜について構造評価と電界効果トランジスタとしての性能比較を行うことにより、構造と移動度、バンド伝導性の相関について調べた。構造解析の結果、アルキル鎖長が長いCDT-BTZ-C20はアルキル鎖長が短いCDT-BTZ-C16と比べて微小角入射広角X線散乱(GIWAXS)で見られる周期性が高く、原子間力顕微鏡(AFM)で見られる繊維状の表面構造も大きく成長していることが分かった。一方で、光学吸収の二色比から評価される配向度はCDT-BTZ-C16の方が高い結果となった。トランジスタ特性では、CDT-BTZ-C20が11.4 cm2/Vsという極めて高い移動度を示し、これはCDT-BTZ-C16の移動度5.6 cm2/Vsの約2倍であった。一方で、移動度の温度依存性やホール効果によって評価されるバンド伝導性はCDT-BTZ-C16の方が高い結果となった。以上の結果から、CDT-BTZ-C20の非常に高い移動度は局所的な周期性の高さや繊維状構造などに起因する一方で、CDT-BTZ-C16の高いバンド伝導性はその配向性の高さに起因することが示唆された。本研究成果の一部は国際学術誌Chemistry of Materialsにおいて論文発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に従い、異なる高分子半導体薄膜に対して配向性や周期性の評価を行い、それらの構造が移動度やバンド伝導性に与える影響を議論することが出来た。加えて、CDT-BTZ-C20からなる電界効果トランジスタの作製条件を最適化することにより、11.4 cm2/Vsの極めて高い移動度を実現することに成功した。これは高分子電界効果トランジスタの線形領域移動度としては最高値であり、高分子半導体材料の高いポテンシャルを示す結果である。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまで同一骨格でアルキル鎖長の異なるCDT-BTZ-C16とCDT-BTZ-C20について研究を行ってきたが、今後は骨格が異なる他の高分子半導体としてPNDTBTや各種ドナー・アクセプター型ポリマーにまで対象を広げ、更なる構造-物性相関の研究を進める。加えて、Roll-to-Roll成膜装置を利用した大面積高配向膜の作製に取り組み、それを用いて電界誘起電子スピン共鳴(FI-ESR)測定の実験を行う。FI-ESRにより、高分子半導体中の微視的キャリアダイナミクスやトラップ状態について明らかにする。
|
Research Products
(4 results)