2016 Fiscal Year Annual Research Report
ナノメートル単位での触媒的反応空間制御と細胞内のタンパク質構造解析への応用
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15H05490
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
佐藤 伸一 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (20633134)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | タンパク質ラベリング / 反応空間制御 / 局所的反応 / 部位特的修飾 / タンパク質複合体解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
タンパク質1分子の大きさはおおよそ5~10 nmであり、タンパク質‐タンパク質相互作用におけるタンパク質間の距離を考慮すると、触媒から数nmの距離で完結する反応は、“タンパク質の部位特異的ラベル化”に応用できる。また、触媒から数十nm以上の反応有効空間を達成することで、“タンパク質の会合状態を検出する方法”の発展に直結する。平成28年度までの成果で、以下の項目を達成している。 1.Ru光触媒によるTyr残基修飾の反応有効距離の精査 これまでに、Ru光触媒のRu(II)→Ru(III)への酸化を駆動力とするラジカル種発生を鍵とした一電子酸化的なTyr残基修飾法を見出している。生体環境での一電子移動範囲を考慮すると、Ru錯体から数nmの範囲内で完結できるTyr残基修飾法を開発できると考えた。そこで、Ru錯体‐【剛直なpoly Pro linker】-Tyr残基のペプチドを合成し、Ru錯体‐Tyr残基間を約1~5 nmで調整した基質を合成し、ラベル化剤のライブラリーを評価した。その結果、数nmの範囲内で選択的かつ効率的に機能するラベル化剤を得るに至った。 2.ヘム・Peroxidaseを触媒とした酸化的なタンパク質修飾法の開発 Ru錯体よりも生体環境調和性が高く、遺伝子操作により、細胞内環境で容易に構築可能な触媒の応用に着手した。本目的で使用するPeroxidaseはRu(bpy)3と同程度の酸化電位を有するため、上記のRu錯体のスクリーニングで得られるラベル化剤がそのまま適用可能であることが判明した。Peroxidaseを用いるタンパク質ラベリングで汎用されるラベル化剤Tyramideを大きく上回る反応効率を示すラベル化剤の創製に至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度までの成果として、以下の2項目の結果を得ている。 1.Ru光触媒によるTyr残基修飾の反応有効距離の精査:Ru錯体‐【剛直なpoly Pro linker】-Tyr残基のペプチドを合成した。それを用いて数nmの有効範囲で選択的に機能するラベル化剤を数種類見出した。それら化合物の電気化学的物性評価によりラジカル種の安定性とタンパク質ラベル化有効距離に関する知見を得た。触媒からの有効範囲が狭いラベル化剤を使うことで、従来の方法よりも大きく標的タンパク質選択性・ラベル化効率に優れた手法を開発することに成功した。また、ラベル化剤の構造変換とラジカル特性の変化によって、タンパク質ラベル化の高効率化、触媒からの有効範囲の調整が可能であることが示唆された。 2.ヘム・Peroxidaseを触媒とした酸化的なタンパク質修飾法の開発:生物学分野でのレポータータグ分子として汎用されるHorseradish Peroxidase(HRP)を触媒とするタンパク質修飾法を開発した。HRPを用いる従来のtyramideより反応効率の面で大きく優れた方法を開発することに成功した。また、ヘムタンパク質Myoglobinの部位選択的ラベル化法を開発した。また、上記の項目1で選定されたラベル化剤はヘム・Peroxidaseを触媒とした場合にも相関して良い特定を示すことが明らかとなり、酸化電子とラジカル的物性からの理論的なラベル化有効距離の制御に発展しつつある。 これらの結果は、今後の細胞内への触媒の導入と、その近接環境でのラベル化、細胞内での標的タンパク質特異的なラベル化、タンパク質‐タンパク質相互作用の解析等への発展が望まれる。以上より、おおむね順調に研究が進行していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度からは、触媒からの有効距離の違いにより、以下2項目に分けて検討を行う。 1.触媒から数nmの近接ラベル化のラベル化特定の精査と応用:これまでは触媒からの反応有効距離を調べるためにRu錯体とTyr残基を種々の長さのリンカーで連結したペプチドを用いて評価してきた。平成29年度からは反応点をTyr残基に限定せず、タンパク質上でのRu触媒の有効距離を調べることを計画する。特定のタンパク質に対する親和性リガンド-Ru触媒の連結分子や、タンパク質のCys残基修飾等を足掛かりとした部位特異的なRu錯体の導入により、タンパク質上にRu錯体が結合した実験系を構築し、種々のラベル化剤候補化合物のラベル化部位を酵素消化・MS./MS解析により決定する。それにより得られたラベル化剤について、リガンド結合サイト未知の生物活性物質の結合タンパク質解析へと応用する。 2.触媒から数十nmの有効距離を有するラベル化剤のラベル化特定の精査と応用:比較的広範囲のラベル化特性を示すラベル化剤についてまだ、特性を精査できておらず、今後もラジカル種の安定性の制御等のアプローチによって新たな候補化合物の選定が必要であると考える。また、評価系に関しても、上記の近接ラベル化のものと別の評価系による反応有効距離、ラベル化効率の評価が必要であると考えた。そこで、数十nmの分解能を有するTEMを用いた評価系により、触媒‐反応点間の距離とラベル化効率を評価する。 これまでに従来法で汎用されるラベル化剤よりも反応効率の高い修飾剤や異なる反応有効距離を持ったラベル化剤を数種類見出しており、今後の展開でさらなる分子設計によりバリエーションの拡張を目指す。細胞内にPeroxidaseタグを発現する評価系については習得済みであり、特定の細胞内環境に存在するタンパク質の網羅的ラベル化やタンパク質複合体解析に適切なラベル化剤を選定する。
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Research Products
(23 results)