2016 Fiscal Year Annual Research Report
原子分解能電圧印加その場TEM法による強誘電ドメインのダイナミクス
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15H05545
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
佐藤 幸生 九州大学, 工学研究院, 准教授 (80581991)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 強誘電体 / ドメイン / 電圧印加 / その場観察 / 電子顕微鏡 / イオン分極 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「原子分解能電圧印加その場TEM法」を確立し、それを誘電体・圧電体・強誘電体などに応用して、これらの機能性材料に電圧を印加した時に起こる動的な挙動を明らかにすることを試みている。本年度は3ヵ年計画の2年目であり、初年度に開発した専用の試料ホルダーを用いてSrTiO3結晶の原子スケール観察を主に行った。また、本研究において確立した原子分解能STEM像から原子位置を10 pm以下の精度で決定する手法は各種材料解析に用いることができるように整備を逐次進めてきた。 本年度は特にSrTiO3結晶に電圧を加えたままの状態で原子位置を可能な限り精度良く測定し、電界下での結晶構造解析の可能性を示す実験に注力した。最新の実験では、SrTiO3結晶に+/-0.57kV/cmの電界を加えたままの状態で原子位置を測定し、格子定数において3pm以下の確度ならびに10pm以下の精度を得ることができた。また、強誘電体等の研究において特に重要となるSrTiO3単位格子中でのTiイオン位置の測定に関しても位置の確度の評価を行い、20pm以下の確度を93%以上の信頼度で得ることができた。このような電界印加下での直接観察に基づく原子位置の10pmレベルでの確度・精度での評価はこれまでに報告されている例は無く、初めての例であると考えている。成果に関しては現在論文を投稿中である。 また、派生して行っていた研究の成果が論文に発表され、窒化珪素(Si3N4)セラミックスの粒界における希土類元素の偏析位置が10pm程度の精度で求められ、その結果から、ランタンおよびルテチウムを同時に助剤として添加した系では、ランタンとルテチウムが原子レベルで交互に偏析することが解明された。同セラミックスを焼成する際の希土類元素の役割を明らかにする結果となっており、米国セラミックス協会誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
前年の成果に基づいて、SrTiO3結晶の電圧印加下での原子分解能観察を行い、同様に前年度に構築を済ませていた原子位置を高精度で測定する技術を適用して、格子定数ならびに結晶格子内のTiイオンの位置について10pmオーダーあるいはそれ以下の確度ならびに精度を得ることができたのは当初に想定していた計画通り進んでいる。これは世界でも前例がない成果であり研究が順調に進んでいる証左である。 同手法は逐次、他の強誘電体材料に適用を進めており、チタン酸バリウム、マグネシウムニオブ酸鉛、PMN-PTなどで専用試料の作製が完了している。チタン酸バリウムでは低倍率でのドメインの動的挙動の観察も成功しており、原子分解能観察の準備も整ってきている。 また、本計画で初年度に構築した原子位置を精度よく決定する方法は適用できる範囲が広く、当初想定していなかった構造用セラミックスの窒化珪素の粒界偏析挙動の解明に適用することができた。偏析元素の位置を10pm程度の精度で決めることができ、粒成長挙動に偏析元素が与える影響を解明することができ、論文発表につながった。(Urakami et al., Journal of the American Ceramic Society, 2017) また、本計画の3年目に計画している、格子欠陥とドメインの動的挙動の相関性を明らかにするために行った材料解析も論文発表(Kasuya et al., Japanese Journal of Applied Physics, 2017)へとつながり、当初期待していなかった成果となった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで順調に「原子分解能電圧印加その場TEM法」の構築は進んでおり、計画の3年目である次年度はより積極的に強誘電体・圧電体・誘電体への適用を進める。今年度の達成目標を以下に挙げる。 1.電界下におけるチタン酸バリウム(BaTiO3)結晶の原子位置直接観察 代表的な強誘電材料であるチタン酸バリウムに電圧を加えたままの状態で原子位置の直接測定を行う。測定結果を電圧を印加していない状態の結果ならびにX線回折などの平均的な構造解析の結果とも比較して、イオン分極の挙動を直接解明することを試みる。 2.マグネシウムニオブ酸鉛(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3:PMN)におけるポーラーナノリージョンの電界に対する動的挙動の解明 PMNは非常に高い誘電率を示すリラクサー型強誘電体として知られており、その特性は材料内部に分布しているポーラーナノリージョンと呼ばれる数nm程度の大きさの領域に由来していると考えられている。しかしながら、そのポーラーナノリージョンが電圧を加えたときにどのように応答するかは解明されていない。そこで、本項目ではその挙動を直接観察することを試みる。 3.CaCu3Ti4O12セラミックスの誘電率の起源解明 CaCu3Ti4O12セラミックスは100,000程度の非常に高い誘電率を示すことが知られているが、その起源は解明されていない。そこで本項目では、電圧印加その場TEM法および原子分解能電圧印加その場TEM法でCaCu3Ti4O12セラミックスが示す構造ならびに状態の変化を明らかにすることで誘電率の起源解明を目指す。
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Research Products
(18 results)