2016 Fiscal Year Annual Research Report
触媒活性を制御する鉄鋼材料の新しい高耐食化原理の創出
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15H05550
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
菅原 優 東北大学, 工学研究科, 助教 (40599057)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ステンレス鋼 / 酸素還元反応 / 不働態皮膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
持続可能な社会の実現に不可欠な耐食鋼、特にステンレス鋼の新たな耐食化指針を導出するため、これまで検討が行われてこなかった腐食現象における酸化剤である酸素の還元反応の触媒活性を制御する研究を行った。今年度は、ステンレス鋼表面で起こる還元反応に及ぼす溶液や添加元素の影響を調査し、ステンレス鋼の不働態皮膜における酸素還元反応と皮膜性状との関係性の解明に取り組んだ。 SUS430ステンレス鋼に相当するFe-18Crをアーク溶解にて作製し、pHを5.4に調整した塩化物イオンを含む溶液とクエン酸緩衝溶液中で回転ディスク電極を用いてカソード分極曲線測定を行うと、酸素還元反応に相当する電流値が溶液の違いで大幅に変化した。これは、カソード分極曲線の測定中に起こる不働態皮膜の溶解反応により皮膜の組成が変化することに起因し、適切な溶液を選択するとともに、溶液の雰囲気を制御することで、溶解を考慮した酸素還元反応活性の測定法を確立することができた。Fe-18Crベースの電極においては、鉄酸化物がリッチな場合に酸素還元反応活性が高いことが分かった。また、添加元素を導入し作製した、異なる組成の不働態皮膜を持つ試料のカソード分極曲線測定の結果より、アルミニウムを添加することで酸素還元反応をわずかに変化する可能性が示唆された。一方で、耐食性を向上するために添加されることが多いニッケルに関しては、少量の添加では酸素還元反応に与える影響が少ないことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、2元同時スパッタリングで作製したステンレスの傾斜組成薄膜を用いて研究を進めていく予定であったが、電気化学測定結果に及ぼす電極内の組成変化の影響が想定よりも大きく、測定に用いるのは不適と判断し、電極をアーク溶解で作製することに変更した。この変更により効率は落ちたが、再現性の良いデータが取得できるようになった。また、ステンレスの不働態皮膜の溶解反応を考慮した酸素還元反応活性の測定法を確立できたことで、ステンレス鋼の不働態皮膜の組成と酸素還元反応の関係性について明らかにすることができた。ステンレス鋼への添加元素が酸素還元反応活性に与える影響も徐々に明らかになってきており、今後の酸素還元反応の発現因子の解明と、酸素還元反応活性制御に基づく耐食化指針の導出に向け、順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の結果より、クロムリッチな不働態皮膜を維持することが酸素還元反応の抑制に効果的であり、アルミニウム添加が影響を与える可能性があることが分かった。これらの結果を基に、酸素還元反応の抑制に寄与する材料因子を明らかにすべく、不働態皮膜の格子定数や半導体特性の測定を行う。また、大気腐食環境において実際に酸素還元反応が抑制されているのか検証するため、ケルビンプローブを用いた水膜下での不働態皮膜の電位計測を行う。最後に、今までの研究結果から、酸素還元反応活性制御に基づく耐食化指針を導出する。
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