2016 Fiscal Year Annual Research Report
金属組織学に基づく高信頼性ステンレス鋼溶接部の創成と寿命予測式の精緻化
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15H05564
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
阿部 博志 東北大学, 工学研究科, 助教 (30540695)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | オーステナイト系ステンレス鋼 / 溶接金属 / δーフェライト / 応力腐食割れ / 熱時効脆化 / スピノーダル分解 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.粒界島状δ相分布組織を有するSCC耐性に優れたステンレス鋼の創成 高周波誘導加熱処理により作製した、粒界のみが優先的に溶融・凝固して島状δ相が分布した組織を有するSUS316L鋼試料(昨年度タスクで実施)を対象として、高温水中SCC試験を実施し、最もき裂停留効果に優れた組織を検討した。具体的には、き裂先端位置とき裂経路長さをそれぞれδ-γ界面とγ-γ界面に分類して統計的に扱うことにより、き裂進展速度の相対値を算出して、き裂停留効果を半定量的に評価した。その結果、粒界に分布する島状δ相がき裂停留に寄与することが明らかになった。特に、粒界三重点に晶出したδ相が最もき裂停留に効果的であることが示唆された。よって、本研究で提案したコンセプトの有効性が認められたと判断した。一方で、今回採用した熱処理がSCCき裂発生感受性に及ぼす影響については十分に検討できていないため、これは次年度の課題と考えられた。
2.δ相分布形態ならびに異方性をパラメータとした低温時効脆化予測式の開発 SUS316L鋼試料を対象として、310~475℃の温度範囲で等温時効処理を行った。時効に伴うδ相の硬化挙動を微小硬さ試験機を用いて選択的に評価し、硬化挙動を調査した。また、比較のための2相ステンレス鋳鋼試料についても熱時効処理ならびにδ相の硬化挙動評価に着手した。さらに、熱時効した溶接部の靱性に及ぼす組織の異方性の影響を評価するために、新たにSUS316NG鋼を用いた溶接試料を作製した。今後は、本研究で得られたδ相の熱時効硬化挙動に関する知見を参考にして、シャルピー衝撃試験用試験片に熱時効処理を施す予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「粒界島状δ相分布組織を有するSCC耐性に優れたステンレス鋼の創成」タスクについては、当初計画以上に進展している。一方で「δ相分布形態ならびに異方性をパラメータとした低温時効脆化予測式の開発」タスクについては、所望のCr当量/Ni当量比の溶接フィラーを入手するまでに想定以上に時間を要した(製品の市場流通状況によるため)。そのため今年度は既に所有している溶接試験体を用いた予備的評価に基づいて、熱時効処理条件の絞り込みを実施した。 また、これまでに得られた研究成果については、学術誌論文として発表するために投稿準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
「粒界島状δ相分布組織を有するSCC耐性に優れたステンレス鋼の創成」タスクについては、本研究のコンセプトの有効性については確認されたことから、今後は当該熱処理のSCC発生感受性への影響有無の評価ならびに再現性の評価を行う。「δ相分布形態ならびに異方性をパラメータとした低温時効脆化予測式の開発」タスクについては、δ相熱時効硬化のノーズ温度である475℃で熱時効処理を行い、その後異方性を変数としたシャルピー衝撃試験を実施することで、靱性への組織異方性の影響評価を効率的に実施する予定である。
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