2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15H05594
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
森 貴治 国立研究開発法人理化学研究所, 杉田理論分子科学研究室, 研究員 (90402445)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 膜タンパク質 / 分子シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞の外側を取り囲む細胞膜には、チャネルやポンプ、トランスポーター、レセプターなど様々な膜タンパク質が存在し、細胞膜を隔てた物質輸送やシグナル伝達などの重要な役割を担っている。遺伝情報の約30%が膜タンパク質であり、また、膜タンパク質は創薬の重要なターゲットでもあるため、その立体構造と機能メカニズムの解明が盛んに行われている。近年、多量体から構成されるイオンチャネル(例えば、P2X4レセプター, NaKチャネル, MscLチャネル, MscSチャネルなど)が報告されている。これら多量体型イオンチャネルは、アミノ酸配列に相同性が無いにもかかわらず、いずれもモノマーが対称的に構造変化、すなわち膜貫通ヘリックスが傾き、ポアサイズを変化させることによりイオンの選択的透過性を制御している。チャネルはポンプと異なって、ATP などのエネルギーを消費することなく機能を発現することが分かっているが、チャネルの構造変化に関するエネルギー論的解釈はほとんどなされていない。タンパク質の大規模構造変化や機能発現を理解する上で、自由エネルギーが大きな鍵となる。本研究では、イオンチャネルのゲーティング原理を自由エネルギーに基づき解析することを目的として、新規方法論の開発とアプリケーション研究を行った。本年度は、2013年我々が開発した表面張力レプリカ交換法を、温度レプリカ交換法やアンブレラサンプリング法と組み合わせ、2次元表面張力レプリカ交換法へ拡張した。これらの方法を混合脂質二重膜および膜貫通ヘリックス2量体(Glycophorin A)に対して適用し、開発した方法の評価を行った。その結果、1次元表面張力レプリカ交換法と比べて効率の良い構造サンプリングが可能であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
表面張力レプリカ交換法を膜貫通ヘリックス2量体の系に適用したところ、当初期待していたようなヘリックス同士のなす角度の変化に比べて、2量体全体の膜に対する傾きが変化してしまう問題が見られた。また、MscL チャネルの膜中での計算を実施し、表面張力を大きく付加すると、同様に MscL 全体が傾く傾向が見られた。このような全体が傾く効果は、チャネルを効率よく開閉させるための障害となる。そこで、傾き角を束縛できる機能を新たにソフトウェアに追加する必要が生じ、本年度は機能の実装と性能評価に時間を割いた。一方、この新規機能追加により、ヘリックス傾き角の束縛ポテンシャルを用いたアンブレラサンプリングと表面張力レプリカ交換法を2次元的に交換する新たな方法論の開発につながったため、今後の展開に期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、開発した手法を用いて実際に多量体型イオンチャネルのシミュレーションを行う。まずは、全原子モデルを用いた計算を行うが、全原子モデルでは長時間スケールの運動を追跡することが難しいため、粗視化モデルや基準振動解析、パスサンプリングなどの方法も用いて、構造変化と機能相関のメカニズムの解明を目指す。
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Research Products
(5 results)