2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15H05599
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
得津 隆太郎 基礎生物学研究所, 環境光生物学研究部門, 助教 (60613940)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 光合成 / 環境適応 |
Outline of Annual Research Achievements |
自然界での光の強度・性質(波長)は刻々と変化するため、植物は様々な光環境に適応しなければならない。光合成電子伝達の許容量を超過するような光エネルギーは葉緑体内の光化学系周辺に活性酸素を誘起して植物自身の損傷を招いてしまう。植物はこのようなストレスから身を守るため、『余分な光エネルギーを消去する』 qEクエンチング(通称NPQ)と呼ばれる光防御機構を発達させてきた。これまでの研究から、NPQにはLHCSR3と呼ばれる光ストレス誘導的なタンパク質が必須であることが分かっている。しかし、LHCSR3の発現誘導のメカニズムは不明であり、どのような光条件が関与しているのかは未知のままであった。そこで、本研究では基礎生物学研究所・大型スペクトログラフを用い、LHCSR3の発現誘導条件を詳細に調べた。結果として特定の波長の光が関与することを明らかにした。さらに、特定の波長を受容する光受容体変異させた2種の変異株を用い、その効果を調べたところ、青色光受容体の一つを欠損した変異株においてLHCSR3の発現が明確に抑制されていることを見出した。現在、上記の研究成果を国際科学誌に投稿中である。 NPQを駆動する光合成タンパク質複合体の機能に関しても生化学的解析を進めた。NPQに関与する分子メカニズムの一つとして、光合成アンテナ分子のリン酸化が知られているが、リン酸化されたアンテナ分子が『どのように』NPQに関わっているのかは明らかではなかった。多くの先行研究では、リン酸化アンテナは遊離状態にあり、単独でNPQを駆動すると考えられていた。そこで平成27年度は、先行研究では技術的に不可能であった生化学的に光化学系ーアンテナ分子の超複合体の精製を行い、その中におけるアンテナ分子のリン酸化状態を調べつつ平成28度以降の機能解析の予備実験を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
光防御メカニズムに関与するLHCSR3タンパク質の発現光条件および発現に関与する光受容体を同定することができた。これにより、様々な光の中でも特定の光が、光受容体の活性化を介して光防御メカニズムを制御していることがわかり、これまでの光合成反応依存的な光防御メカニズム制御に加えて新たな光環境適応メカニズムの知見を得ることができた。したがって、初年度の研究目標を十分に達成していると考えている。 また、NPQ超複合体の機能解析についても、複合体精製手法の確立、定量的プロテオミクス手法の新規導入が完了しており、平成28年度以降の機能解析へ向けた準備が整いつつある。以上を鑑み、本研究は概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
LHCSR3の発現条件および関与する光受容体の同定、機能解析は完了した。その一方で、この研究成果の副産物として、LHCSR3のパラログでありNPQにも寄与するLHCSR1の発現条件も明らかになりつつある。LHCSR3とは全く異なる発現条件であることから、これまでの光防御メカニズムの概念から離れた作用機序を持つことが示唆されている。研究計画段階では構想に含まれていないものの、平成28年度以降は新たにLHCSR1の発現制御メカニズムにも注力する予定である。 一方、NPQタンパク質複合体の精製手法の確立および定量的プロテオミクス手法の導入が完了したため、今後は複合体のNPQ機能解析を中心に研究を遂行する予定である。また、NPQ複合体の構造解析に関しては、電子顕微鏡を用いた単粒子解析手法の条件検討中であり、引き続き予備実験を行い、観察条件の最適化を進める予定である。
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Research Products
(3 results)